二 初仕事

その後の旅路は順調なもので、セナとD2は日が高い内に目的地であるゾヘナへと到着した。

「鉱山の町ゾヘナへの到着を確認、ナビゲートシステムを終了します」

「えっと、Chasseurの看板は……」

軽く辺りを見回し、目当ての看板が提げられた店を見つけるとセナは小走りで近づき、軽く呼吸を整えてから店内へと足を踏み入れる。

「おやいらっしゃい。もしかしてあんたがMGCエムジーシーの人かい?」

「はい、セナ・アンリと言います」

「そうか、なら早速だがあんたにやってもらう仕事の説明をさせてもらうとしよう。なぁに、なりたての旅鷲たびわしにもこなせる簡単な仕事だから心配はいらないさ」

店主の説明に少し安堵した様子のセナに対し、D2は抱いた疑問を提起する。

「旅鷲とは来訪先で請け負った依頼を収入源とする旅人を指す呼称であり、マジック・ギア・カンパニーの社員であるセナを旅鷲と呼ぶのは不適切ではないでしょうか」

「そうでもないよ、この長期出張で僕がやることは旅鷲がやっていることとほぼ同じだからね」

「ふむ、そいつが噂のエーテルかい?随分と頭がお堅いようだな」

「頭がお堅い……この場合は物理的な強度ではなく思考に柔軟性が無い、という意味が適切と判断します。しかしエーテルに対してその表現が適切かは判断しかねます」

「どこまでお堅いんだお前さん……」

こめかみを押さえつつ店主はセナに訊ねる。

「なぁ、エーテルってのは皆こんな感じなのかい?」

「僕はD2以外のエーテルとは話したことがないので……あの、仕事の話に戻ってもらっても良いですか?」

「おっとすまない。あんたにやってもらう仕事ってのは鉱山に入り込んだモンスター、ストーンイーターの駆除だ。あいつら何度追い払ってもすぐに戻ってきて埒が明かなくてな……」

「それで駆除に踏み切った、というわけですね」

「まぁそういうこった。奴らは群れで行動しているから親玉さえ倒せば大人しくなるとは思うんだが……」

「エネミーアナライズシステムを用いてストーンイーターの習性を検索した結果、店主の対応は適切と判断します」

「じゃあそれで良さそうだね、鉱山へは直接向かえば良いですか?」

「ああ、中の道案内は鉱夫たちがしてくれるはずだから適当に声をかけな」

「分かりました」

一通りの確認を済ませるとセナはハルバード型MAを担いで店を後にした。


「あんた、ここじゃ見ない顔だな……もしかして旅鷲か?」

町の入り口からでも充分大きく見えたカルヴァリー鉱山を間近で見て感心していたセナにそう声をかけたのは今し方鉱山から出てきた中年の鉱夫だった。

「ええと、一応そういうことになるでしょうか……Chasseurからストーンイーター駆除の依頼を受けてこちらに来たので」

「おおあんたが引き受けてくれたのか!鉱山の中の案内はもう誰かに頼んだのか?」

「いえ、これから頼む相手を探そうと思っていたところです」

「だったら俺が案内をするよ。さ、ついてきてくれ」

同伴者を得て鉱山の中へと入ったセナが目にした光景はとても幻想的なものだった。

「これは……マギクォーツの原石を照明の代わりにしてるんですか?」

「ああ、採掘が難しそうな奴を利用しているんだ。中々良いアイデアだろ?」

「実に面白い趣向だと思います。……ただ、折角の情緒を壊す無粋な輩がいるみたいですけどね」

「えっ?」

きょとんとする鉱夫の後ろで獣の唸り声と足音が微かに響く。

「敵性反応二、駆除対象のモンスターである可能性大」

「早速お仕事の時間だね。──下がっていてください」

「わ、分かった」

臨戦態勢を取るセナに気圧されつつ鉱夫が物陰に隠れるのと同時に二匹の獣──ストーンイーターが姿を現す。

「システムを戦闘モードに移行。エネミーアナライズシステム起動。対象の戦闘能力を──」

D2がメッセージを読み終えるよりも先にストーンイーターたちは走り出し、爪が鋭く伸びた腕を突き出すがセナはそれをハルバード型MAの柄で弾いて防ぐ。

「無粋な上に血の気が多いなんて迷惑千万だね、早急にご退場願おうか」

助走をつけて再び突撃してきたストーンイーターの喉元をセナはハルバード型MAで貫き、追撃を狙ってきたもう一匹を巻き込みながら壁に叩きつける。

鈍い断末魔と共に二匹のストーンイーターはずるりと地面に崩れ落ちる。

「エネミーの撃破を確認。システムをニュートラルモードに移行します」

「ふぅ……」

頬を伝う汗を手で拭うセナの傍へ物陰から出てきた鉱夫が興奮した様子で駆け寄る。

「す、凄いなあんた!その調子で親玉の駆除も頼むぜ!」

「……ええ、善処します」

鉱夫に不安を悟られないようセナは笑顔で取り繕った。

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