マギナイストリア

等星シリス

Chapter1:試験運用

一 旅立ち

「──D型エーテル試作2号機、起動シークエンス開始」

起動音と共にハルバード型MAマギナアームズから無機質な音声が響く。

「搭載システムの動作チェック開始」

動作ごとに設定されたメッセージをエーテルが読み上げるのと同時に動作確認作業中であることを示す規則的な点滅を繰り返すこと数度。

「──完了、全システム問題なく稼働中」

作業が終わったことを知らせる音が短く鳴り響き、点滅パターンがエーテルの音声に連動したものへと切り替わる。

「起動シークエンス終了、システムをニュートラルモードに移行します」

「オッケーオッケー、問題なく起動できたようね」

安堵の息を吐きながら赤髪の女性は視線をハルバード型MAからそれを持つ部下に移す。

「それじゃ改めて指示を出すわね。セナ、あなたには長期の出張に出てもらうわ」

「目的はこのMAに搭載されたD型エーテル試作2号機……D2ディーツーの性能テスト、ですよね」

「そうよ。まぁちょっとした旅に出るとでも思いなさいな」

「良いんですか、そんな軽い認識で……」

「細かいことは気にしないの」

困惑した表情を見せる部下──セナに対して女性は屈託のない笑みを浮かべる。

「とはいえノープランで旅をするのは大変だろうからこっちで簡単なスケジュールを組んでおいたわ」

「それはありがたいです」

「じゃあ早速で悪いけどまずは鉱山の町ゾヘナに向かってちょうだい。詳細な指示はChasseurシャサールの人が教えてくれるわ」

「ゾヘナですね、分かりました」

「それじゃあはいこれ」

「っとと……アヤネさん、これは?」

「出張手当という名の旅支度。必要になりそうなものは積めておいたはずだけど、もし足りないものがあったら悪いけど自分で何とかしてちょうだい」

「……後で経費から落ちますか?」

「そこはモノ次第かしらねぇ……あ、向こうでの仕事が片付いたらマギフォンで連絡してね」

「分かりました。それじゃいってきます」

「いってらっしゃい」

アヤネに渡された鞄を背負い、手短に挨拶を済ませるとセナは踵を返して歩き出す。

その表情は固く、ハルバード型MAを握る手は微かに震えていた。


「──さて、と」

街を出たところでセナはハルバード型MA──正確にはそれに搭載されたエーテルであるD2に声をかける。

「早速だけど頼むよ、D2」

「ナビゲートシステム起動。目的地を鉱山の町ゾヘナに設定。ルートの検索を開始します」

淡々とメッセージを読み上げ、ハルバード型MAから微かな駆動音が鳴り出す。

「──検索完了、これよりナビゲートを開始します。まずは進行方向に50歩程前進してください」

「まずは道なりにって奴だね」

D2の指示通りセナは簡易的な舗装が施された道を歩き出す。

「それにしても良い旅立ち日和だ──」

小鳥が囀る晴天を見上げ、他愛もないことをセナが呟こうとしたその時。

「──警告、複数の敵性反応が接近」

緊急事態の発生を示すメッセージをD2が読み上げ、セナの行く手を阻むかのように獣の群れが姿を現す。

「ランドッグの群れ……試運転にはちょうどよさそうな相手だね」

「システムを戦闘モードに移行。エネミーアナライズシステム起動。対象の戦闘能力を解析開始」

セナがハルバード型MAを構えると微かな稼働音が響き、数度規則的に点滅する。

「解析完了。対象の撃破は容易であると判断します」

「ランドッグ相手ならそうなるだろうね。それじゃ、手早く倒そうか」

咆哮と共に飛びかかってきたランドッグの一匹をセナはハルバード型MAで突き刺し、そのまま地面に叩きつける。

街道の石畳にぶつけられた獣の頭は容易く潰れ、残った身体は僅かな痙攣をした後にぴくりとも動かなくなる。

仲間を殺されたことに激昂した別の一匹がセナの喉笛を噛み千切らんと突撃するが軽いステップで躱され、唸る間も無く首を刎ね飛ばされる。

残る二匹は左右からの挟撃でセナの脇腹を食い千切ろうと目論むも片方は回し蹴りで頭蓋骨を砕かれ、もう片方は翻った勢いを利用した横薙ぎの一閃で斬り伏せられる。

「全エネミーの撃破を確認。システムをニュートラルモードに移行します」

「D2、調子はどう?」

「全システム不具合無く稼働中。問題ありません」

「そっか、なら良かった」

ハルバード型MAについた獣の血を払い、セナは軽く息を吐く。

「それじゃ改めてゾヘナに向かおうか」

「ナビゲートシステム再起動、一時保存フォルダから鉱山の町ゾヘナへのルートをロードします」

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