第158話 光子化機動<フォトンマニューバ>と精霊の種類
自身の操る秘奥義と魔法の関係性をクリムから聞いたゴウは、人間の魔法適性の低さに思うところはあったが、ひとまず聞きたかった事は聞けたので、次の質問を投げかけることにしたのだった。
「我々の秘奥義と魔法に関する話は概ねわかりました。それで2つ目の質問なのですが、先ほどクリムさんが使っていた技はなんなのでしょうか?」
「技・・・ですか?私何かしましたっけ?」
クリムにはゴウの言う”技”が何を指しているのか分からなかったので、首を傾げて聞き返した。
「先ほどアクアちゃんを制止した際に見せた移動術の事です。一筋の閃光が走ったかと思ったら、次の瞬間にはもうアクアちゃんを羽交い絞めにしていたように私の目には見えましたが、あれは瞬間移動、いわゆるテレポートの類なのでしょうか?」
ゴウは自身の質問が性急に過ぎたと省みて詳細を説明した。
「ああ、そういう事でしたか。さっき私が使ったのはテレポートではないですよ。あれは魔法の一種で、光速移動術・
クリムは事も無げに答えた。
「光の速さで!?人体がそれほどの速度で移動したら、とてつもないエネルギーが発生するはずですが、それが事実ならば周囲に天変地異にも匹敵する大災害が起きるのではないでしょうか?いやまぁ、ドラゴンであるクリムさんに人体と言うのも変ですが。」
ゴウは見た目こそ筋肉ゴリラであるが、師範代という指導する立場にいる関係上、それなりに広範な知識を修めているので、意外にもインテリな反応を示した。
クリムとしては、魔法に疎いゴウに対してあまり細かい説明をしても仕方がないだろうと考えていたので、あえて簡略化した直感的な説明をしたのだが、それが反って混乱を招いたのだった。
「失礼。答えが少々適当過ぎましたね。たしかにあなたが言う通り、人体相当の質量が光速で移動したらとんでもないことになるでしょうね。
意外にも賢いゴウに対し、今度は詳細な解説をしたクリムだった。
「肉体を光子化ですか・・・。魔法と言うものは思った以上にとんでもないことをしているのですね。ところで、その
ゴウは感心しつつさらに質問した。これまで格闘家としての修行に専念していたため、片手間に学ぶことが難しい魔法には手を出してこなかったゴウであるが、自身の流派の秘奥義が実は魔法であったと知ったことで、俄かに興味を膨らませていたのだ。
「うーん?
クリムはゴウの要求に応えて、
「なるほど。どうやら修行してどうこうできるレベルの話ではないようですな。」
ゴウはなんとなく内容は理解できたが、自身には到底真似できないという事もまた理解したのだった。
「そうですね。すごく頭がいい魔導士が居たら、あるいは計算だけなら可能かもしれませんが、人間の場合は処理能力以前に肉体の光子化が最大の障壁となるでしょうね。人間の身体および精神構造上、肉体が一瞬とは言え消失することになる光子化には耐えられないはずですから。光子化に耐えられる種族、つまり精神を肉体から切り離して魂だけで魔力を操れる種族となると、エルフや魔族、そしてドラゴンなんかが当てはまります。要は魔法が得意な種族ですね。」
クリムは魔族であるシャイタンや魔王達にそれとなく視線を向けたが、彼女達は正体を隠しているため努めて反応を示さなかった。
「ほうほう、いずれも人間より遥かに超命種で、単体でも強力な種族達ですな。」
ゴウが相槌を打った。
「そんな感じですね。あと、余談ですが生物と言うよりは概念的な存在である精霊は、基本的に死ぬことが無いので光子化に耐えられるでしょうね。」
クリムは今度は精霊の一種である
「
チャットはクリムの言葉に補足する様に言った。
「ほほう、精霊にも種類があるんですね。不勉強で申し訳ない。」
なぜかゴウが謝ったことで、クリムとチャットのささやかな攻防は有耶無耶となったのだった。
◆◆◆用語解説◆◆◆
・精霊の種類について
また、生物由来か無生物由来かによって、精霊の初期段階の精神性が大体方向づけられる。生物由来の精霊は元となった生物の性質を引き継ぎ、感情表現や好き嫌いもそれに準ずるが、無生物由来の精霊は具象化した直後は感情が薄く、何事に対しても無機質な反応を示す。しかし、精霊化して年月を経ると、生物由来の精霊は元の性質を失っていき、逆に無生物由来の精霊は感情を獲得していくので、両者の違いは次第に曖昧になっていく。
◆◆◆終わり◆◆◆
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