第148話 それらしい嘘と嘘みたいな本当の話
前回までのあらすじ。
人間の少女アサギと
彼女達は種族も実年齢もまるで違うのだが、外見的には3人とも人間基準で10代前半くらいの容姿であり、成長の過渡期の、大人でも子供でもない微妙な時期である。また、まるで立場の異なる彼女達だが、三者三葉に自身の所属する種族内では少々浮いた存在であった。すなわちアサギは人間、シャイタンは魔族、クリムはドラゴンであるが、その種族内での同年代の者と比較したならば、彼女達は突出して高い戦闘能力を有しており、またその生い立ちも普通とは言い難い。変わり者同士という共通点も持っていたのだ。なお、シャイタンとクリムは現代の”普通の人間”について知りたいと考えていたため、はっきり言ってしまえば普通ではないアサギはサンプリング対象として不適格だ。
これまで魔族の住む最果ての島から外に出た事が無かったシャイタンは、当然ドラゴンと出会うのも初めての経験だったので、初めて出会った人間の少女であるアサギと同様に、クリムにも興味を惹かれていた。
なおこの場合の興味とは、あくまでも知的好奇心からくる興味であり、それ以上の深い意味はなかったのだが、シャイタンの幼女好きという性癖を知っているチャットは、シャイタンがクリムにも手を出そうとしているのではないかと、あらぬ心配をしていた。しかし前回も述べたが、シャイタンは自身より幼い容姿の少女が好きなので、同年代のアサギとクリムに対してはそう言った感情は抱いていない。ちなみにシャイタンが重視するのは外見だけであり、その内面には無頓着である。本来は男である歴戦の魔王だろうと、かつて世界を滅ぼしかけた災厄の魔龍だろうと、外見さえ幼女なら中身は気にしない、ある意味での潔さを持っていた。元々彼女が少女を好きになったのは、彼女の魔力に中てられた男児達から中身のない薄っぺらい好意を数多く向けられた、幼少期の経験に基づいているのだが、そんな彼女もまた相手の内面を見ない、表面的な部分だけを見て好意を向ける様になっていたのだ。
前振りが長くなったが、少女達の会話に視点を戻すとしよう。
「えっと・・・クリムさんでしたっけ?初めまして。私はシイタです。」
シャイタンは途中から加わったクリムにまず自己紹介した。ちなみに彼女はクリムがドラゴンである事と、かつて聖女と呼ばれた人間の記憶を持っている事も、チャットとクリムの会話を聞いていたので把握している。
「はい、初めましてシイタさん。すでにご存じの様ですが、私はクリムです。どうぞよろしく。」
クリムはシャイタンの様子を観察しながらスッと手を差し出し握手を求めた。
「はい、よろしくお願いします。」
シャイタンはクリムの手を取り、がっしりと握手してこれに応えた。魔族には握手で信頼関係を確かめ合う文化はないのだが、人間流の挨拶はチャットから一通り教わっていたのだ。
さて、クリムがなぜ急に握手を求めたのかというと、もちろんシャイタンに親愛のしるしを示す意図もあったが、実はもう一つ隠された意図があった。シャイタンに直接触れる事によって、擬装魔法で隠された本来の魔力を正確に感じ取り、そこから彼女のおおよその強さと、感情を読み取ろうとしたのだ。クリムは魔力から感じ取った情報に加え、さらに声色の変化や立ち居振る舞いに怪しい所が無いかも合わせて観察し、総合的に判断した結果、彼女に敵意が無い事を改めて確認したのだった。
「それで、なんの話をしていたんですか?」
クリムは実のところ先ほどまでのアサギとシャイタンの会話を聞いていたので、何を話していたか知っていたが、自然と会話に混ざるきっかけを作るために一応確認したのだ。
「アサギさんの年齢を聞いていたんですよ。見たところ同い年くらいでしたからね。ついでというわけではないですが、クリムさんは何歳なんですか?」
シャイタンはクリムの質問を怪しむ事もなく普通に答えた上で質問を返した。
「私は昨日の朝方産まれたはずなので生後1日目ですね。」
クリムは特に嘘をつく理由も無いので正直に答えた。
「え?ちょっと聞き間違えたかもなんですけど、生後1日って言いました?」
シャイタンは自身の耳を疑い聞き返した。
「ああ、いえ、間違いじゃないですよ。私は自分で言うのもなんですけど、普通のドラゴンではないので、そういうものだと思ってください。説明すると長くなりますからね。」
クリムは嘘こそつかなかったが適当に誤魔化した。彼女の生い立ちを説明すると長いのは事実だが、イレギュラーなドラゴンの成長方法については、龍王グラニアから他言しない様にと釘を刺されていたので、人となりを知らない相手に話すのは憚られたのが本当の理由だ。ちなみに昨日、四大龍のキナリとシゴクには、グラニアの要請を無視して話してしまっていたが、それはクリムがキナリやシゴクを信用していたからである。
人間の知識を持っている彼女は、当然自身の生い立ちの異常性を知っていたし、正直に告げれば相手がどんな反応を返すか、おおよそ予想はついていた。しかし適当に誤魔化すにしても、クリムは
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