第126話 海皇流古武術道場

―――さて魔王達の動向がひと段落したので、本作主人公たるクリム達の元に視点を戻そう。

 少し間が空いたのでおさらいしておくと、クリムとその仲間達はヤパ共和国で開かれる『世界闘技大祭グラディアルフェスタ』に参加するため、大会参加エントリーに向かっていた。しかし彼女達は土地勘がないため道に迷ってしまい、その時たまたま通りがかった格闘家親子のゴウとアサギに道案内を頼んだのだ。そして彼等も目的地は同じであったため、一緒に大会会場に同行させてもらいエントリーを無事済ませる事ができたのだった。

 その後、同じ格闘家であるアクアが彼等の流派に興味を持ったのをきっかけにして、2人がヤパに滞在中世話になっているという古武術道場へとお邪魔する事になったのだった。


 大会会場を出発した一行は特に何事もなく道場へと到着した。ただし場違いな大男1人がたくさんの幼い少女を引き連れて歩く異様な一行に対して、道行く人々が奇異の目を向けていた事を除けばだが。

 幼い龍人の姿をしているクリムゾン一家並びに植物の特徴を有する樹人間のスフィーは、人間社会において非常に珍しい存在であるので、注目を集めているのはそのためだろう、とクリムは考えていたがそれは事実とは異なっていた。多くの亜人族の子供が失踪しているとの噂が市中に広まっていたので、異様な集団は事件性を疑われていたのだ。ところが、ゴウおよびアサギが所属する古武術道場はそれなりに歴史と知名度があり、一般市民からの信頼も厚かったので、道着姿の親子の存在を認めた人々は間もなく疑いを晴らしたのだった。


♦♦♦用語解説♦♦♦

・海皇流古武術道場について

 道場には本気で武術を修めようと日々研鑽を積んでいる者達が当然集まって居るのだが、その他に武術を通して心身を鍛えるために、要するに情操教育の一環として子供を預けているケースや、護身術を身に着けるために通っている様な、カジュアルな利用者も多い。

 古武術と言うと厳格で浮世離れしたイメージがあるが、長く戦いのない平和な時代が続いているこの世界では、本気で武術を極めんとする変わり者は少ない。旧態依然としていては道場の門を叩く者は減る一方であるため、武術に興味を持つ人の裾野を広げるためにも、流派として色々挑戦しているのだ。

♦♦♦解説終わり♦♦♦


 小高い丘の上に建つ道場に到着した一行は、門の前で立ち止まるとその外観を眺めた。道場施設は3つの建物から構成されており、木造平屋で広い体育館の様な板間を持つ格闘場がメインで、それに二階建て住居が二棟併設されている。一棟は道場を管理する師範代家族の住居であり、もう一棟は住み込みで修業する弟子達が寝泊まりするアパートの様な形態の寮である。さらにすべての建物をぐるりと囲む様に石垣の塀が立っており、現在クリム達がいる正面の門を閉じればちょっとした隔離空間となる構造だ。

 そろそろ日も傾こうとしている時間帯であるため、一般の利用者は既に帰宅しており、道場に残っているのは住み込みの関係者だけであった。


「結構きれいで大きな道場ですね。古武術道場と言うからには、もっと寂れた感じを想像していたので少し意外ですね。」

 道場の全容を魔力感知によってざっと把握したクリムは率直な所感を述べた。

「この国自体が比較的新しい新興の国ですからね。町ができて、ある程度賑わってから開かれた道場もまた近年に建てられた物なのですよ。」

 クリムの疑問にアサギが答えた。

「なるほど。たしかにセイランからそんな話を聞いていましたね。」

 疑問が解消されたところで、一行はゴウとアサギに連れられて道場の門をくぐったのだった。

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