第3話 マジカル☆エコーロケーション
長い眠りから目覚めたドラゴン・クリムゾンは真ん丸の巨体を海上に浮かべて、浮島のごとく波間に揺られてぷかぷかと漂っていた。長い首をゆっくり四方に振りながら漂う姿は、一見するとのんびり日向ぼっこでもしているかの様だが、そこはかつて世界中を恐怖と混乱に陥れ
情報収集の方法を具体的に示すと、指向性を持った魔力の波を頭部から発して反射してきた魔力を受け取り、魔力の波長の変化から周囲の状態を把握するという、クジラやコウモリが超音波で行うエコーロケーションと似た原理での範囲索敵法である。これは魔力操作に長ける魔導士や、ある程度以上の知性と魔力を持つ生物なら日常的に行っている行動であり、この星に住む生物にとっては決して特別な技術ではないのだが、通常その効果範囲はせいぜい数十メートル。凡百のドラゴンであれば数キロメートルにとどまる。
しかし基本的な技術もクリムゾンが扱えば桁違いの威力を発揮する。彼の龍はその巨大な体躯に見合うだけの膨大な魔力を持っており、さらに脂肪層と軟骨組織とによって構成された特殊構造を持つ長い首は、魔力の波を増幅した上に超高速で放射することが可能である。これにより本来単純で狭小範囲にしか効果が及ばない反響定位法が、軽々と星全体の状況を把握できる程の超広域索敵能力へと昇華しているのだ。
クリムゾンは眠りに付く以前、世界中で起きる大小問わぬ争いに乱入して回っていたが、常にタイミングよく戦場へ赴く事ができたのはこの高性能な索敵能力によるものだった。しかしこの能力は同時にクリムゾンの存在を相手に報せる事にもなる。なぜなら尋常ならざる巨大な魔力の波が世界中に伝播するからである。そのためこの魔力の波は、彼の龍が暴れていた時代には戦乱の抑止力としての役割も担っていたのだが、あまり賢くないクリムゾンはその事に気づいていない。
――数分後、ある程度索敵を済ませたドラゴンはぽつりと呟いた。
「うーん?なにか燻っている感じはあるけど、戦いの兆しは見えないなぁ。」
クリムゾンは少々馬鹿だが戦闘行動に関しては鋭い嗅覚を持っており、大規模戦闘の準備であったり兵士の士気の高まりを感じれば、これから戦争が起きるであろうことを予期できる程度の知性は備えていた。戦闘に関してだけはプロのドラゴンがそう感じている通り、今現在世界中どこを見回しても戦争が起きていないのは事実だった。しかし同時に何かが起きようとしているのもまた紛れもない事実であった。
当人の望みとは裏腹に世界平和をもたらしたドラゴンが遠い昔に存在した。そんなドラゴンが眠りにつき、戦乱を失って久しい世界は新たな動乱の時代を迎えようとしていた。
偶発的な事故によって目覚めた紅玉ドラゴンは、巨大な世界のうねりをさらに巨大な力でかき乱していくのだった。
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