第30話 ミャハ❤
金色に輝く王冠を頭に乗せ、新しい王様は微笑み皇族のように手をふると拍手が沸き起こった。
「それでは王様、名前と今の気持ちをみんなに伝えて下さい。」
新しい王様は自分のマイクを両手で握りしめてアイドルのような仕草で答える。
「はい、2年の緒方 遥です。王様になれてとても嬉しいです。」
校庭のあちこちから声援がかかり、緒方遥は緩やかに手を振ってそれに応えた。
「それでは王様、一つ目の命令をどうぞ。」
やれやれナギの王様の仕事もこれで最後だな。
クラウンゲームの準備で、なかなか恋人の時間が取れなかったし、明日からは受験一色になるから、今日位は二人っきりでゆっくり過ごしたいな………などと、このイベントの後の過ごし方について考えていた。
「一つ目の命令は辻修斗先輩にお願いします。」
「………へっ…!?」
なんで俺が呼ばれるんだ?
ナギもびっくりした顔をしている。
いや、驚いているのは俺達だけじゃないここにいる全員が驚き校庭全体がどよめいててる。
「えっ?アレ?またなの?」
「そう言えば去年も辻先輩だったな。」
「一体先輩に何があるんだ?」
「また、ポップコーン?」
校庭の一部でクスクスと笑いが起こった。
ナギが怪訝そうな顔をしてこっちを見ている。
俺は首を左右に振って知らないアピール。
この2年生を全く知らないし、部活でもあったこともないし、接点なんてなにもない。
名指しされた理由すらわからない。
「辻君、呼ばれたんだから行かないと」
傍にいた女子に促されてイヤイヤ朝礼台の下まで歩いて行くと、新しい王様はにこやかに俺に向って
「辻修斗先輩、今日から卒業するまでボクの恋人になって下さい❤」
ウインク付きで言う。
?
は?
「今 なんて……」
脳が理解できずに、聞き返そうとした次の瞬間、校舎が揺れるほどの罵声と悲鳴が巻き起こった。
「なに言ってんのよーーーーっ!!このクソガキ~~~っっ!!」
「うわああああぁ、俺達の遥ちゃんがぁ~~~!!!」
「私が女王になって言うはずだったのにっ!!! お前が言うなっ!」
「遥ちゃん、そんな奴のどこが良いんだ!!」
「王様になっただけでも許せないのにっ!男のくせに何考えてんのよっっ!! 修斗君は私のものよっ!」
「辻修斗は女だけじゃなく、男にもモテるのかよ!!」
「辻修斗、俺達の遥ちゃんを返せ~~~!!!」
「遥ちゃん、目を覚ますんだ!!!」
女子だけじゃなく何故か男子からもヤジが飛んでくる。
何だ何だ??コイツは何なんだよっ!!
全然理解できなかった。だってそうだろう?
みんなの目の前で堂々と男同士で付き合うと言ったんだぞ?!
しかも、断ることの出来ない王様の絶対命令でだ。
「辻先輩~~❤」
「なっ!」
緒方 遥はマイクを持ったまま両手を広げて朝礼台から俺の胸めがけて飛んだ。
この体勢の緒方を避けたら全身を打って怪我をする!
っていうか下手すると怪我というより打ちどころが悪ければもっと酷いことになる!!
ゴンと鈍い音がハウリングまじりに場内に響いた。
素早く判断してなんとか緒方遥を受け止めることが出来た。
「ふう、何してんだ。危ないだろ!」
「だって辻先輩が受け止めてくれるって信じてたもん❤」
俺の腕の中にいる緒方遥は自分は必ず守ってもらえるという自信に満ちた瞳で少しも悪びれていない。
避けてやれば良かったんじゃないかとほんの少し悪い気持ちになりながら新しい王様を地面に降ろす。
「ありがとう。辻先輩❤」
緒方遥は俺の首にぶら下がり頬にキスをした。
「うわっ!!何すんだっ!!」
「あん❤」
慌てて緒方 遥をひっぺがすが、時すでに遅しナギの泣きそうな顔が目に入った。
「違うぞ!これはっ!!」
「2つ目と3つ目は、まだ考えていないから決まったらまたみんなの前で公表しまーす❤ミャハッ❤」
再び俺に抱きつく緒方遥に捕まって身動きが取れない。
「ちょっとお前いい加減にしろっ!! ナギっ!! 待ってくれ、ナギっ!!」
俺と緒方遥の周りは文句を言いに来た奴や野次馬などの人でごった返して揉みくちゃになった。
なんとか緒方遥から逃げ、人混みから抜け出して、やっとたどり着いた朝礼台にはもうナギの姿はなかった。
「…ナギ…どこに行ったんだ…」
急いでスマホに連絡するが電源が入っていないとメッセージが流れて出ない。
何度も電話をかけながら教室まで戻りナギを探すが、机にあったはずの鞄がなくなっていた。
嘘だろうっ!!
なんでこんな事になったんだっ!!!
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