第28話 10分

ナギの号令とともに陽が傾き始めた空へ、籠を抱えたドローンが勢いよく飛び立つ。


 唸るモーター音とそれを追いかける2年生の賑やかな声が校庭中を走り回る。


 頃合いを見計らってナギが合図を出すと、ドローンは上空で旋回してメダルを雨のように降らせた。



 当然ドローンの真下にいた2年生はメダルが直撃して痛い痛いと更に大きな声が口々に上がる。



 去年の2年生達と全く同じ行動を取っていることに俺は呆れた。



「早く取ったからって それが当りとは限らないのに…」



 ふと上の方から視線を感じて見ると前半の役目を終え少しホッとした表情のナギと目があった。


 ニッと笑い親指を立てて『グッジョブ』をしたら、ナギは輝くような笑顔を俺だけに向ける。




 うわー、可愛い❤マジ天使❤………よしっ!この後も、また打ち合わせしようっ!!


 今日は家に帰るのが遅くなってもいいよな!





 大音量のアナウンスが俺の幸せな気分を壊したうえに メダル拾いの手を止めてしまうような受付の状況をみんなに届けた。



「おおーっと!!今年も開始早々、一番にメダルを持ってきた人がいるぞー!!君はメダルを吟味はしなくて良かったのかー!!」




 今年のアナウンスは男性でプロレスの実況中継みたいな喋り方だ。


 メダルを持ってきた生徒は受付の生徒会役員の影にすっぽり隠れてしまうほど小柄で、俺の所からは、やり取りが見えない。




 きっとあの生徒もまた、レアメダルを見つけて当りと信じて持って来たんだろうな。


 ホント、みんな去年のクラウンゲームを覚えていないんだな。




 俺だけじゃなく3年生の誰もがそう思っているだろう。






 ピンポンピンポン!!






 パソコンと繋がっているスピーカーから軽快な音が鳴った。この音は………



「あ、当りです…」



 当選のアナウンスが校庭に流れると、優秀なマイクはその場にいた可愛い声もちゃんと拾って放送した。



「やったあっ!!ボクが王様だーっ!!」



「………えっ!!」



「ええええええええええっ!!」





 校庭中に響き渡る全学年の驚きの声とともに、たった10分で今年のクラウンゲームが終わってしまった。

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