第23話 王様の休日


♪~~~ ♪~~~ ♪~~~


翌朝、スマホのアラーム音で目が覚めた。


スマホを掴み、修斗からの連絡の確認するがなにもない。


今日は文化祭の振替休日。


そして先々週から修斗と映画を見に行く約束をしていた日。


でもそれも、俺がキレたせいで全てなくなってしまった。


あんなに楽しみにしていたのに………。


目が熔けるほど泣いて泣いて泣き続けて、涙が枯れたはずなのに修斗の事を思うと自然と涙が頬を伝う。


昨夜泣きはらした目は瞼が重く腫れ上がり開けにくい。


喉が渇いたな……


鳴らないスマホを掴みリビングに向かった。


「………おはよう」


「おはよう、もう!昨日結局ご晩飯食べないで寝ちゃって……キャッ!!どうしたのその顔!泣いたの?!」


騒いでいるお母さんに構わず横をすり抜け、コップに水を注ぐとテーブルに着いた。


水を口に運ぶと、身体は水分をかなり欲していたみたいで とても甘い。


お母さんはぱたぱたと奥へ行ってすぐにハンドタオルを持って戻って来た。


タオルを水に浸して緩く絞ると開いている方の俺の手にのせた。


「これを目にあてなさい。腫れが引くわ。」


「ありがとう」


タオルを目に当てると腫れて熱を持っている瞼が冷やされて気持ちがいい。


「今日、映画に出かけるって言っていたわよね? 昨夜もあまり食べてないから朝はしっかり食べていってよ?」


「………食べたくない。」


本当に食べたくないんだ。


こんな落ち込んだ気持ちで何を食べても美味しくない。


昨夜はあのままベッドに入り一晩中スマホを握りしめて泣いているうちに寝てしまった。


胃の中は空っぽのはずなのに食欲がわかない。


俺………昨日なんであんなこと……


思い出すだけで涙がじわっと瞳に溜まっていく。


タオルに目を押し当てて母親に気づかれないように静かに泣いた。


「もう、いいわ。せめてスープだけでも飲んでいってよ。」


「……うん」


お母さんはコーンスープを入れたカップを俺の前に置くと、すぐにキッチンに戻って食器を洗い始めた。


俺の事なんか放って置いて欲しいのに……


そう思いながらスープを一口飲むと ふわっと優しい味と温かい温度が、俺の心と体を中から温めていく。


涙がまた……


俺は慌ててタオルを掴んだ。


ゆっくりとスープを飲み干した頃


「いつも通り初回に行くんでしょ?早く仕度しなさい。」


「…うん……」


言われるがまま俺は部屋に戻ると用意しておいたグリーンのシャツとベージュのパンツに着替え、お気に入りの黒と茶色のチェッカーフラッグ柄のボディバッグを背負った。


修斗と二人で見るはずだった映画を一人で見るなんて……



………嫌だな。



そう思いながら玄関で黒いスニーカーにのろのろと足を入れる。


「渚、こっち向いて」


「なに?」


ドアに手を掛けたところで呼び止められ、背中越しに応えるとお母さんは傍まで来て俺の顔を覗き込んできた。


「目の腫れよ。うん、さっきよりましになったわ。」


「……」


「いってらっしゃい。気をつけてね。」


「いってきます………」


重い足取りで一人電車に揺られて映画館に向かう。


アクション映画「BUTTOBI:ZERO」二人で観るのを楽しみにしていたのに……。


前売りのムービーチケットを買って お揃いの特典クリアファイルを貰って二人で喜んでいたのに……


それももう悲しい思い出になってしまった。


今日は映画を見に行くのはやめて、どこか他の所に行こうか。


買い物とか、ゲーセンとかにしようかな。


…………映画以外の選択肢を色々考えるが、こんな落ち込んだ気分で行ってもどれも楽しむことなんか出来るわけない。


すぐにでも家に帰りたいけど、そんなことしたら またお母さんが心配しちゃう……



仕方なく時間をつぶすために当初の予定通り、映画を観てすぐに帰ることにした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る