第22話 繋がらない


もうここに………修斗の傍にいたくなかった。


服に傷が擦れて酷く痛いけど、身体の事なんか構わずに走り出した。


「ナギ、ごめん。嫌なこと言って。本当にごめん。あ、あのナギ…俺が悪かったから…」


修斗が謝りながら俺の横にぴったりとついてくる。


俺の足では修斗を振り切るなんて無理だが1秒でも傍にいたくなかった。


駅に着くとドアの閉まりかけた電車に急いで飛び乗った。


電車のドアをどんどんと叩く音が聞こえるが、俺は背中を向けたまま他人の振りをする。


修斗が何か言っているけど、そんなの知るもんか!!


電車が走り出して すぐにスマホがガンガン鳴り始める。


ディスプレイを見ると「辻 修斗」の文字が表示されているから、留守電モードに切り替わるまで放置した。


またすぐにスマホが鳴り出すということを繰り返すこと数回


家に帰るまで2時間ずっと鳴り続けるのは、他の乗客に迷惑になる。


俺はスマホの電源を落とし、窓の外に流れては消えていく夜景を睨みつけた。







無言で帰宅した俺をお母さんは優しく出迎えてくれた。


「おかえりなさい、渚。随分、遅かったのね。お風呂湧いてるわよ。」


お母さんは中学校のあの事件があった時から、毎日欠かさず、夕方にはお風呂を沸かしておいてくれる。


俺がむしゃくしゃしている時に、お風呂に入ると感情がリセットされるのを解っているからだ。


身体と頭を洗い、ザブンとお湯につかると怒っていた感情をお風呂が全て洗い流して、体の中からリラックスをさせてくれる。


気分よく風呂から上がり、冷蔵庫から牛乳を出して飲んだところでご飯に呼ばれた。


家族みんなの夕食は済んでいて、帰宅が遅くなった俺の分が並べられているテーブルに着いた。


「わあ、ハンバーグだ。」


俺はお母さんの手作りハンバーグが大好物なんだ。


特製ソースをかけフォークで大きめに切って、一口でパクリと頬張ると肉汁がジュワッと溢れて幸せな気分になる。


「美味しいっ!最高っ!」


「ふふふ、良かった。」


お母さんがお茶を持って向かい側に座ると優しく話しかけてきた。


「今日は後夜祭があったから遅くなったのね。」


「うん!」


「誰が王様になったの?お母さんの知っている人?」


「あ!王様は俺で……」


と言いかけて、王様になってからの事柄が一気に頭の中を駆け巡ぐる。


ハンバーグの刺さったフォークを皿に落とした。




「渚?」


「あ……嘘………だろ?」


王様になって折角修斗の恋人になれたのに


『俺を可愛いなんて言うなっっ!!!俺をバカにするやつは絶交だっ!!顔も見たくないっ!!』


頭に血が上っていたといえ、何やってんだっ!!


自分の部屋に慌ててスマホを取りに行く。


「渚っ!!お行儀が悪いわよっ」


「ごめんなさい。急用思い出したから!!後で食べるからご飯そのままにしておいて!!」


制服のポケットからスマホを取り出して、すぐに電源を入れるけど さっきのように鳴ることはなかった。


自分が電源を切ってから三時間半経っている事に気が付く。


修斗はあれからどのくらい電話をかけてくれたんだろう。


リダイヤルで修斗に電話をかけるが繋がらない。


繋がるのは留守番電話サービスだけ……


何度も何度もかけるけど結果は同じ。



! 修斗…電源を落としている?!


折角両思いになったのに、

付き合えることになったのに、

恋人になれたのに!!


どうして俺はっ!!


電話をかけるのはやめて、届いている修斗の留守電メッセージ1件を再生すると涙が溢れた。


留守電メッセージの内容は修斗の悲しくて切ない言葉で一生懸命に謝っている心からの謝罪だった。


LIMEの内容もほぼ同じでずっと誤っている。


「ヤダヤダ謝んないでよ!小さいことでキレた俺の方が悪いのに!」


中学校での嫌な事件は、修斗は知らないし、何も関係ない事。


俺がなんで怒っているかなんて知らないはずだ。


早く謝らなくちゃ、

誤解を解かなくちゃ、

中学校で起きたことちゃんと修斗に話さなくちゃ!!


「ごめん。修斗、ごめん。本当にごめんなさい。」


俺は涙で歪んで見える文字を読みながら謝っていた。


沢山謝っているのにも関わらず、その謝罪に全く答えない俺に 修斗は…


『俺のためを思って、したくもない命令をさせて悪かった。命令は無効でいい。無理に付き合うのはつらいだろう。もう全部何もなかったことにしよう。』


このLIMEを送ってきたのを最後に連絡が止まっていた。



ウソ

ウソ

ウソ

ウソ

嘘っ!!

そんなの嫌だっ!!


泣きながらまた電話をかけるが繋がらない。


さっきと同じく留守番電話サービスにつながるだけ……




神様が折角与えてくれた幸せを俺は自分でダメにしてしまったんだ。




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