第9話 過去(2)
米山先生に連れられて山口と教室に戻るとクラスメイトが、わっと近づいてきた。
「山口、どうだった?」
「ダメダメばれちった、自宅謹慎一週間と近所の掃除のボランティアしろってしかも1ヶ月だぞ。」
「うわー、それ、岩崎もいっしょ? 」
「アイツは何にもなし、俺だけ」
「それってズルくない?」
「普通、同罪じゃね?謹慎とボランティア岩崎と半分しても良くない? 」
僕の方をみんなが睨んで口々に文句を言ってる。
「こら!山口、早く仕度して帰りなさい。」
「はーい。」
何かひそひそと話していた連中が僕の周りを取り囲むとスマホを突き出した。
「渚ちゃーん❤男のくせに女みたいに可愛いってどうなんだよ。男として情けねーな。」
スマホでサイトに上げられている動画を僕に見せて嘲笑っている。
クラスメイトが一斉に笑い出した。
クラス全員知っていた?
知らないのは 僕だけ……?
クラス全員が悪魔に見えた。
ぷっつん
何かが音を立てて切れ…
「うわああああああああっっ!!」
……………
……………あれ……
さっきまで学校にいたよな……なんで自分ちの風呂に入っているんだろう?
気が付いた時には自宅の浴槽の中だった。
体のあちこちに出来た擦り傷に暖かいお湯が染みる。
どうしたんだろう僕。
その前の記憶はほとんどない。
お風呂からあがってリビングに向かうとお母さんは泣いていた。
記憶がなくて何があったか教えて貰うと、その内容は信じられないものだった。
僕は教室で叫んで暴れて数人に怪我をさせたらしい。
お母さんが学校に迎えに行った時には ぼーっと一点を見つめて床に座り込んでいて、恐る恐る話しかけると、クラスメイトにいじめられたと泣き出したとのことだった。
僕にはそんな記憶がなかった。
後日、大学病院に行くと極度のストレスから嫌な記憶を消してしまったんだろうと診断された。
学校からは三日間の自宅謹慎を言い渡された。
謹慎が開けて登校するとクラスメイトの僕を見る周りの目が変わった。
岩崎 渚は、普段大人しく見えるが、実は不良で怒らせると怖いという噂が流れ、周囲の生徒から卒業するまで距離を置かれる事になった。
それ以来、僕の周りでは「可愛い」とか「女の子みたい」と冷やかす奴や、そういう言葉を聞かなくなった。
みんなに舐められないように言葉も「僕」から「俺」と言うように変え、高校は俺を知っている人間がいない遠い所を選んだ。
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視界がぼやけて見える。
「ナギ?どうした?」
過去を思い出して固まっていた俺を心配そうに修斗が覗き込んでくる。
しまった!俺、涙ぐんでる?!
修斗から顔を背けて見得ないように袖で涙を拭う。
「……通学大変だけど。修斗に会うことが出来たから、この高校に来て良かったよ。」
「……ナギ…」
俺は両手にたこ焼きと焼きそばを持ってニッコリと笑った。
「だってこんなにお得なんだもん。」
「お………俺の良かった所ってそこー?! orz 」
「あはははは、うそうそ冗談だよ。良い奴じゃなきゃ友達にならないって!」
人を思いやれる優しい、心もイケメンなお前が………
大好きだよ。
「どーせ飯持ってくるから良い奴なんだろ………」
「根に持つなぁ。もーすねないの!はい、綿飴あげるから。」
「それは元々俺が持って来たヤツだろー!」
「あはははは!」
部室には人は来なくて、そのままふざけあって、だらだら食べていた。
普段の修斗は忙しくて こんなに長く独占することは出来ないから凄く嬉しかった。
このままずっと時間が止まってくれたらいいのに……
そう思わずにはいられなかった。
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