第8話 過去(1)
貰って来たタコ焼きを ぱくついていると俺の顔を覗き込んで修斗が聞いてきた。
「前から聞きたかったんだけど ナギはなんでこの高校にしたんだ。」
「たまたまだよ。ここがいいなって思っただけ」
「でもナギんちから二時間はかかるだろ?遠くないか?」
「え?1時間50分だよ。」
「!!!……それ あんまり変わんないよ!!」
「あはははは」
嘘をついた。
自宅から遠いのには訳がある。
中学生の時……
担任の米山先生が怖い顔をして教室に入って来た。
「岩崎と山口、職員室に来なさい。」
米山先生の声はいつもと違って硬く尖って響いた。
「え、なんだろう?」
「やべっ!」
何が やべ なんだ?
逃走しようとした山口を米山先生が捕まえ、僕についてくるようにと言われた。
先生と山口の後を大人しくついて行くと着いた先は職員室ではなく校長室だった。
ドアを開けると校長先生、副校長先生に睨まれ、恐怖のあまり僕は固まった。
米山先生が山口に向かって訪ねた。
「呼ばれたことは解っているな?」
「なんのことか分かりません。」
「岩崎もそうか?」
「はい。」
本当になんで呼ばれたのか分からないから正直に答えた。
だがどう見ても先生方は僕たち二人にとても怒っているみたいだ。
僕は今まで、呼び出されて怒られるような悪いことした覚えがない。
「とぼけても無駄だぞ、証拠はあるんだからな。」
そう言うと米山先生はノートパソコンを出して僕達に見せた。
そこには「ネットアイドル動画」と右上に表示され、画面にはアイスクリームを食べている僕が映っていた。
「運営会社に問い合わせて山口の口座に入金していると確認済みだからな。」
「あー、そこまでばれちゃってんのか。」
僕は驚きを隠せなかった。
「えっ、えっ、これ、この前の……」
この動画はついこの前、学校の帰りに山口と寄り道して買い食いした時のものだ。
山口はしょっちゅう動画を撮る奴で、なんでそんなに撮るんだと聞いたら
『将来俺は映画監督になりたいから練習してるんだ。岩崎 練習台になってくれ。』
と言ってスマホで撮影していた。
「山口っ!映画監督になりたいから練習に撮らせて欲しいって言ってたよね?!なんでこんなことになって……」
僕の言葉を遮って山口は開き直って言う。
「いーじゃん、いーじゃん。減るもんじゃないし」
「山口っ!! 少しは反省しなさい!」
「まあまあ、米山先生その辺で。どうやら岩崎君は利用されただけみたいですね。」
怒鳴る米山先生を制して、校長先生が穏やかに話しかける。
「山口君、なんでこんなことしたんですか?正直に話せば処罰の軽減を考えましょう。」
校長先生の一言に安心したらしく山口は動画投稿の理由を正直に話し出した。
「なんでって彼女とデートする金が欲しかったから。だってこんなに可愛いんですよ?視聴者だって 女の子だと思ってガンガン課金してくれるし、利用しないと勿体無いじゃないっすか。」
可愛い……
女の子……
パソコン画面の右横の再生ランキングリストを見ると全て女の子だった。
今まで親友だと思っていたいたのに、小遣い稼ぎのために僕を利用したのか。
ショックで声が出ない。
ネット動画を投稿したのは山口の単独犯ということで、山口は一週間の自宅謹慎と1ヶ月間近所の清掃のボランティア活動。
僕は被害者として何も咎められなかった。
ネット動画は近いうちに削除されると教えてもらい。
ほっとした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます