第4話

 目が覚めるとそこは地下室で、私の隣に友人はいなかった。辺りに穴はなく、もうその道は閉ざされたのだと察した。


「お帰りなさい、おや、連れのもう一人の方は」


 私は訝し気にするセミナーの男に事情を説明した。

 異世界に行った男が並外れた身体能力を手に入れたこと、その力をもってして探検や冒険に明け暮れたこと。

 そして男がこの世界に帰りたくないと言って別れたことも。


「やはりそうでしたか」


 それは一体どういうことなのだと聞いた、やはりということは予想できていたことだということだ。そして事情を聞くとこういったことは初めてではないということが分かった。


「基本的に当セミナーでは複数人で異世界に行ってもらうことになっていますが、その全てが帰ってくるわけではありませんでした。中には全員帰ってこないといったこともありました」

 

 聞けばその時々でいろんな異世界に飛ばされ、一定確率でチート能力者たちが生まれるらしく、現実世界よりも魅力を感じ、異世界に残ることを決めた人はかなり多いという話だった。

 事情を聞いてみると、確かにそうかもしれないと思った。

 創作の苦しみに悩みぬいているその時期に、その世界では皆に必要とされるような人間になれる、それも現実逃避ではない、まぎれもなく現実で。

 私にも何かチート能力があったらどうだっただろうか、英雄と持ち上げられ、それでもこの世界に帰ると言えた自信はあっただろうか。

 それはただの運だった。

 だけど私は帰ってきたのだ、それはやりたいことがあったから。


「ところで、これからどうされますか、もし小説を賞に送ろうと思われているのでしたら、一番近い賞ですとこういったものが開催されておりますが」


 やるべきことを考え、燻っていた私にセミナーの男が紹介してきたのは、いまいるビルの出版社の広告で、そしてそこの新人賞への応募要項だった。





 家に帰った私は早速小説を書き始めた。

 異世界での経験はそのメモ帳が真っ黒になるほどに書き込んでいたので、それをもとに小説を書いていったのだが、全然面白くなかった。

 一緒にいた男と違って、私は基本的に何かしらに追い回されたりするような経験ばかりが多かったから、そんな物語自分でさえ面白くないと思うのに、どうして読者が喜んでくれるだろうかと。


 そしてふと思いついた、あの友人を主人公に置いて、自分をヒロインにしてみたらどうだろうかと。

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