じゆ

涼しいような熱いような中途半端な風が白に揃えられたカーテンを押しのけ薬品臭い部屋に入り込んでくる。

異様なほどに整えられたベッドの群れの中の一つに少年がいた。いつもどことは決めずにボーっとしていた。

ただ、ベッドの横の南向きの窓が視線に入ったときだけ吸い込まれたかのようにじっとそこを見ていた。

ある日彼と同じ病室に盲目の少女がやってきた。彼はその子のことなど気づいてなどいないかのようにいつも通りの日々を送っていった。

いつものようにぬるい風を送り続ける窓、皮膚に突き刺さる陽射しを遮る梢、飽きることなく鳴き続ける蝉。

「暑いですね今日は。」

突然発せられた言葉に思わず体を振り向かせる。そして、典型的な返事を返す。

「そうですね。今日は今月の最高気温更新らしいですよ。」

しばらくの沈黙を責め立てるように蝉は声を荒げて鳴き始めた。その声に根負けして重々しく口を開く

「うるさくないですか。」

「なにがですか。」

とても透き通った声が返ってくる


「蝉ですよ。最近出てきましたね。」

「そうですね。けど、私は好きですよ。」

(虫が好きというだけで珍しいのにその上蝉が好きとなると相当変わっているな)と思いながら再び訪れた沈黙に身を任せる。

 その日以降ちょっとした話を交わすようになった。天気の話、今年の高校野球の予想や気になっている選手のこと、政界の不祥事などなど・・・。

いつもなら気に留めないニュースなどにも注意を払い話していくようになった。毎日少しずつ話す時間が長くなっていた。次の日が来るのが待ち遠しく感じられ始めた。

蝉の声が心なしか小さく感じられ始めた頃、彼女が急にいなくなった。看護師さんの話によると転院してしまったらしい。何か一言掛けてくれてもよかったのにな、となぜか湧き上がってくる不満を気にしながらニュースに耳を傾ける。どうやら近々成人に関する法律が変わるそうだ。しばらくして、飽きてきたので窓の方を見る。

暑さだけ残して弱まった陽の光が自分の病室を静かに、しかし、確かに照らしていた。

 それから数日後、あの少女が転院した際の看護師さん

が担当になった。

「あっ、そういえば。」

そう言いながら彼女はいそいそと部屋を出たと思うとしばらくあとに帰ってきた。

「前、ここで同室だった子覚えているかな。その子からあなたにって、手紙もらってたのよ。あの子に言ってなかったんだね。何が書かれたかきになるだろ。」

驚きとわざわざ手紙を書いてくれていたことへの感謝と少々の罪悪感が混ざり混乱しながらも、何とか頷く。

「えーとね、読むね。

どうも、お久しぶりです。短い間でしたがお世話になりました。わざわざ毎日お話をしてくれてありがとうございました。私は生まれつき盲目で、病気がちでした。そんな私にニュースや窓から見える景色など教えてくれてありがとうございました。ところで、失礼を承知でお尋ねしたいのですが、あなたは体のどこかが悪いのでしょうか。毎日元気なご様子を声から感じていましたが、そのような姿はかんじられなかったのです。

長文になってしまい、申し訳ありませんでした。

だそうだよ。」

ふと、彼女の居たベッドの方を見る。

「あと、彼女に何で嘘ついたの。この部屋には窓ないでしょ。まあ君が彼女に自分も目が見えないんだ、なんて言いにくいかもしれないけど、嘘はだめだよ。」

なぜか懐かしい風が部屋に吹いたような気がした。

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じゆ @4ro

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