ディアンヌ一家暗殺計画 エリシア編
会議
1:00 p.m. Crowley事務所 第一会議室にて
「時刻になったから始めさせてもらおうか。」
ホワイトボードの上にかけられている時計を見て、腰掛けていた椅子から立ち上がるエドガー、そこからホワイトボードの方に向けた歩き出す。
普段と変わらずの雰囲気で始まる会議。
しかし、今回は少しばかり違う。
私の左隣には、肩まで髪を伸ばした女、エドガーが座っていた席の右隣にはメガネの女が座っている。
「さっき渡した資料の、実行計画書を見てくれ。」
エドガーがホワイトボードの前に着く。
「このメンバーで仕事をするのは初めてだが、少し簡略化させてもらう。こちらの都合で申し訳ないが、実行までには時間はあるから安心してくれ。」
ニコッと笑ってから資料に目を向ける彼。
エドガー名物の交流を簡略化する点以外は変わらないな。
「さて、本題だが、実行は余裕を持って一週間後の対象の父の誕生パーティーの夜だ。パーティーの中盤あたりから暗殺を狙う。潜入はリオ、情報はアリエッタに頼みたい。」
説明をしながらボードにまとめていくエドガー。
「基本情報を見てくれ、対象の情報、と会場館内の地図等がある。ここに書いているのは実行までには叩き込んでいてくれ。それと、館内の地図はスパイ科の方々の努力のおかげだ。ただ、対象の部屋に通じる道は長年従事しているものでも入らせないらしい。対象、専属警備員、そして対象の両親以外は入ると誰であろうが殺害しろという命令の厳重警備だそうだ。なので部屋付近の地図は建物の構造上で書かれているので、多少のズレが生じる。あまり責めないでやってくれよ。では説明に入るぞ。」
彼は一息ついてからこう続ける。
「対象の名は“Elysia Dianne”《エリシア・ディアンヌ》、今この国は戦争をしていることは知っているな?その敵国、ラルデアの首脳、“Dirk Dianne”《ディルク・ディアンヌ》の娘にあたる人物だ。もちろん首脳の娘だけあって護衛は山ほどいる。ディルクは四人の子供を抱えているが、全員腹違いの子供だ。その中で一番溺愛しているのが今回の対象だ。その証拠に常に護衛は四人だ。だが、対象が睡眠をとるときにのみ護衛が交代し、夜間護衛隊に変わる。しかも部屋の外での警備だ。中の警備はゼロで、完全的なプライベート空間だ。」
エドガーは簡単にボードにまとめていく。
「作戦はこうだ。パーティーの途中で対象は部屋に戻り、就寝するだろう。そこを主に狙う。夜間防衛隊は顔が見えないような装備のため、防衛隊を途中で眠らせ、代わりにスパイが入ろう。そしてリオは窓から侵入してくれ。窓のロックは全て中から開けるか、首脳のスマートフォンから開けるかをしなければ、センサーが反応してしまう。それは当日ハッカー科の人たちが首脳のスマートフォンをハックしてくれるそうだ。その情報はアリエッタに入るのでアリエッタが流してくれ。そして侵入した後、殺害してくれ。」
個人の詳しい流れはその次のページに書いてあるとエドガーは告げる。
私の左隣の女は必死に資料を見ている。
「アリェッタ。」
「はっ、はい。」
返事をしたのは私の前に座っている女だった。
彼女の淡い紫のパステルカラーに染まった髪が揺れる。
彼女がそのアリエッタか。
「君には期待しているが、リオの足を引っ張るようならその地位から即外すからな。」
「はい、承知しています。」
「うん、なら良い。じゃあ、続けるぞ。先ほども告げた通りリオは普段通り潜入、アリェッタの情報で動いてくれ。」
「あぁ。」
「そしてここからが集まってもらった理由にあたるのだが、リオの道具をどう持ち込むかだ。もちろん銃を持っていると止められるだろう。リオの例の短剣でも良いのだが、金属関係は提出のち、自己は探知機にかけられる。OKが出れば入れるという仕組みだ。荷物検査や、最新型防衛システムチェッカーにもかけるような話も上がっているそうだ。その最新型がどこまで優秀かはスパイ科、研究科等が今調べているところなんだが間に合わなさそうなんだ。なので当てにはできない。それで何か案はないかと思い集めさせてもらった次第だ。」
「それに関しては対策がありますエドガーさん。」
「速いな、聞かせてもらおうか。」
そういうと席に戻るエドガー。
ありがとうございますといい立ち上がるアリェッタ。
そのままホワイトボードの元へ行き、会場の簡略図を書き始めた。
彼女は何を思いついたのかが見ものだな。
「まずリオレッドさんは、何も持たず、潜入してもらってそのまま続けていてもらいます。パーティーの前半に目標の舞台演説があるようですので、就寝はそのあとと考えています。パーティーの予定表に『対象退場時に舞台演出として一時消灯、のち司会者のみスポットライト点灯』と書かれているので、その際にお手洗いに。一番近いお手洗いはセンサーを潜り抜けたあとにあるのでそこに隠し込むみ、リオレッドさんが取り出し実行‥というのはどうでしょうか。」
「あー…そうだな、しかしどうやって隠し込むんだ?」
「清掃員として男性側のお手洗いに入るというのはどうでしょうか。ここまで盛大なパーティーをするのですから、増員の清掃員ぐらい入れると踏みました。」
「だが、流石にその時間の清掃はさせないと思うが?」
「はい、なので最終清掃時に隠し込むのはいかがでしょうか。」
なるほど、しかしエドガーはそんなバレやすい作戦は許さないと思うが。
「たとえそれが実現したとしても他の清掃員はどうするんだ?万が一バレたら何もかもがパァだ。」
少ししかめっつらのエドガー、それに対して自信ありげのアリェッタ。
「それに関しては数名理解のある知り合いに頼み、共に行動し、目を盗みながらというのはどうでしょうか。」
少し呆れたという顔のエドガー、無理もない。
「それはそうだが、まずまず殺し屋というのは殺し屋本人が行動するときは実行時のみだ。それではアリェッタ、君自身が危険だ。相手は敵国の首脳だぞ。殺し屋の名と顔ぐらい頭に入れているだろう。」
なのでそれは却下だ。と冷たく突き放した彼。
少し考える素振りを見せ、これはどうだろうかと提案してきた。
「その作戦の変更だ、お手洗いに隠し込むのはスパイ科の人達に頼むのが一番と思うのだが。そうすると君がやる、知り合いに頼むよりリスクは少ない。殺し屋というものを舐めないでもらいたい。殺し屋の名前と顔は皆知っていると思っていると考えていた方が良い、それに殺し屋というのは、科のトップだ。その分シビアになってもらわないと困る。しかし、潜入せざるを得ない場合は、その分準備は一段と念入りにさせているんだ。それを潰されちゃあ困る。」
「はい‥すみません。」
ションボリとした彼女、新人は必ずと言っていいほど通る道だ。
最初から良い選択を取るなど、無に等しいのだ。
なんたって経験がモノをいう世界だからな。
「だが、お手洗いに隠し込むのは賛成だ。その調子でこれからも頑張ってくれよ。今はまだ会議の場、後戻りができるからな。この経験を生かしてくれ。」
「はい!」
嬉しそうにメモ書きに書き込んでいる彼女。
殺し屋試験では、情報を叩き込まれる。
今までの伝説の殺し屋のことを学び、経験を分けてもらう。
だからなのか、ごくたまに最善と思えるものに近い作戦を編み出す人がいる。
だが、初めから経験ゼロ、情報もここまで集まっていなかった時代に最善の案を出せたものも昔はいたのだ。
今はもう廃れてしまったが。
「うん、ではこれらをまとめて上に流しておこう。依頼者にはジェリス、君がこのあと伝えていてくれ。」
「了解です、エドガーさん。」
そう眼鏡の女が答える。
「あとリオ、このあと下の喫茶店で頼めるか?」
「あぁ、だろうと思ったよ。」
「ありがとう。」
恐らく今朝の話の続きだろう。
それにあの喫茶店のコーヒーは、私とエドガーの思い出の味だからな。
「では解散だ。みんなご苦労様でした。次の会議は2日後だ。今日と同時刻集合だ。遅れるなよ」
そうアナウンスした後そそくさと出ていくエドガー。
それについで私も出ていく準備をする。
「リオレッドさん、少しよろしいですか?」
アリェッタと呼ばれている女が呼び止めてきた。
「あぁ、なんだ?」
「本日からリオレッドさん直々にご指導頂きます、アリェッタ・レデーションと申します。これからよろしくお願いします。」
丁寧に名刺まで差し出す彼女、元社会人か?
「名刺か、懐かしいな。すまないが私自身名刺を持っていないんだ。」
「あっ、そんな、全然お気になさらず。私のだけでも…」
言葉に詰まる彼女、少し緊張ぎみだな。しかたあるまい、新人だし多めに見てやるか…
「あぁ、わかった。受け取っておく。」
「ありがとうございます!」
彼女から差し出された名刺を受けとり、胸ポケットにしまう。
少し恥ずかしそうに深い青色の目を伏せた。
彼女はサラサラとしたその髪を、耳にかけた。
「お時間を割いていただきありがとうございます。それでは、失礼いたします。」
「あぁ、わざわざありがとう。」
そう告げてから私は部屋を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます