My Dear Love

NkY

何度目かの春休み。

※こちらの小説は、もここ様作『たなばたムスメのなやみごと』(https://kakuyomu.jp/works/1177354054888593155)の二次創作です(作者様承諾済み)。

 第58話にちらっと出ていた、なゆうが高校を卒業した後の春休みの帰省のお話となっております。


 だいぶ過激めなお話になります。キャライメージ崩壊等、気をつけてお読みください。特になゆう。



 ………………



 布団をかぶって仰向けに寝る。


 唇をなぞる。……なゆうの感触が、まだ残ってる。



『…彦星くん、おやすみ。』



 ……なんてことない、ただのおやすみのキスなのに。

 なゆうがいるときは、いつもやってることなのに。



「はー……………はは……」



 なゆうと久しぶりに会えたからだろうか。


 俺、なんか…おかしくなってる気がする……。




 ……………




 寝れない。


 今までに寝れないことはここに来てからも何度かあったけれど……今回のは、明らかに質が違っていた。



「…………なゆう………」



 つぶやいていたのに気が付いて口元を抑える。


 ……重病だな、俺。は……。



 振り切るために目を閉じる。


 ……まぶたの裏に浮かんでくるのは、今日なゆうにプレゼントを渡したときのこと。




 ……………




 ―『…わ……腕時計、これ…!?』


 ―『…なゆうの就職祝い。』


 ―『えっ!? …そんなお金、あったの!?』


 ―『…………………はー…………………』


 ―『……彦星、くん……?』



 ―『……失礼すぎ。返して。』


 ―『ひゃっ!? あっ…私のプレゼント!』


 ―『…俺の渡したプレゼントなんだけど。』


 ―『……怒ってる?』


 ―『当たり前。…第一声が、お金あったの、ってさ、……ほんっと、失礼すぎ。』


 ―『…………ごめん。』

 ―『やだ。』


 ―『……ごめんって。』

 ―『やだ。』


 ―『………………ごめんなさい。』 

 ―『やだ。』




 ―『…………ありがとう。』


 ―『…………は』

 ―『……これ、さ、…私のために、選んでくれたんでしょ。』


 ―『……まあ………そう、だけど』



 ―『嬉しい。…………大好きだよ。』




 ―『……はー、…………ほんと、…………』




――ぎゅ。




 ―『…………なゆうさ。そういうとこ、……ほんと、……ズルい。』




 ……………




 …………余計に寝られない……………。


 まあ、あの後なゆうがまた失礼すぎることを言ってきたので、再び腕時計を没収することになるのだが(謝り倒されて結局渡した)。


「こんなん、俺のキャラじゃないって……」



 部屋を出ようと布団から出る。行き先は…なゆうのいる部屋。

 ……断じて、夜這いとか、そういうんじゃない。ただ、ちょっと……もう少しだけ、なゆうと一緒にいたくなった……ってだけ。



 ふすまにそっと手をかけると、勝手にふすまが動いた。

 ……自動ドアか。



「………………」



 違った。

 なゆうが俺の部屋のふすまを開けたんだ。

 俺と、同じタイミングで。



「…彦星、くん………」



 言葉は交わさない。……お互い、同じことを思っていたというのが何となく伝わって……嬉しかった。



 俺はなゆうの手を握って、自室に入れた。

 ふすまを音を立てないようにそっと閉める。



 星明かりがさしこむ暗い空間に、俺となゆう、二人っきり。




「……寂しくなった……?」


「…………うん……」


「………ふ」



 ――ぎゅ。



「やけに素直だよね。」


「……寂しいんだもん……………」


「…………んん……」



 夜の時間帯というのは人を素直にさせるものらしい。


 なゆう。今の状況を分かっててそれ言ってる?

 暗い部屋で俺と二人っきりなんだよ? ……いくらここがなゆうの実家で、音が筒抜けだと言ってもさ。



「……一緒に寝よ……?」


「……ん……」



 表には出してないけど、俺、………相当、我慢してます。…色々と。



 手をつないだまま畳の床に敷いた布団に入る。

 もちろん一人用だから、結構くっつかないと二人は入らない。


 もし音が漏れて、美織さんが来ようものなら大変だ。

 俺となゆうは声を思い切りひそめて話をする。



「……ごめんね、急に来て……」


「んーん。……俺も、行こうと思ってたから。」


「彦星くんもさみしかったの?」


「…………秘密。」


「言って?」


「…言わない。絶対。」



 なゆうから逃げるように寝返りをうつ。

 たぶん、俺、顔真っ赤だと思う。暗くてよかった……。



「………………私、だけ?」


「は……、」



「…………さみしいって、思ってたの、……私、だけ……?」



 ズルい。



「…………」




 ――ぎゅううう……。


 なゆうの方に向き直って、思い切り抱きしめた。



「……………照れ屋さんめ。」


「んん…うるさい……。」




 しばらく無言のまま、なゆうを抱きしめつづける。

 なゆうは俺の胸元に頭をぴったりとくっつけていた。


 もしかしたら、俺の心音を聞かれてんのかも。絶対バクバクいってる。すげー恥ずかしい……。




「……彦星くん。」


「ん…………」


「彦星くんの音、すごく安心する。」



 なゆうの甘えた声が、いたずらに俺の心をくすぐった。


 というか、もう、ぶっちゃけるけどさ……なんならさっき抱きしめた時点で色々と当たってるし、色々と当たってしまっている。

 身体には出てるけど行動には出ない俺……ほんと、よく、我慢してる。




「…………………『する』、?」

「ぶっ!?」



 はあ!? 何言っちゃってんのなゆう!?


 恐怖に似た何かを本能が感じて、とっさになゆうから離れて距離を取って背を向けた。

 ……勢いあまって、布団の外から飛び出すくらいに。



「し、しねーし。しねーから、」


「……持ってきたんだ。『ゴム』」



 はああああ!?



「な、…なんであるんだよ……」


「…なんでって、そりゃ…………言わせないでよ、ばか彦星…………」



 なゆう、『する』つもり満々だったらしい。

 ……でも、なゆうがここまですることに俺は少し違和感を感じた。



 なんで、…こんなに、積極的なんだ……………?



「……なゆうさ。その……焦ってない?」


「……え……?」


「何か言われたの? 友達とかにさ。」


「……。」



 図星か。



「…………笑わないでほしいんだけど、…いい?」


「笑わない。……聞く。」



「……友達からしばしば聞かれるんだ。『カレシとどこまでいったの』って。」


「ん……。」



「…それで、いつも『キスまで』って答えて。…するとさ、友達に笑われるんだよ。『どこまで奥手なの』って。それで、『早くやっとかないと、捨てられちゃうよ』って言われて。」


「……それで?」


「彦星くんならそんなことないって思ってるよ。けど…長い休みが明けるたんびに、同じようなことを毎回毎回言われて。不安になって……それで」


 そんなことか。



「……はー……ばかじゃないの。」

「……」



「……俺は、なゆうのことを捨てたりなんかしないよ。…一生。」



 俺でも少し驚いた。…俺って、こんな言葉を言っちゃうんだ。

 ……そして、そんなことが言えるくらい、俺は…なゆうのことが好きなんだ……。



「彦星、くん……」


「それに、さ。俺も言われるんだよ。長期休みが明けるたびにさ、『やった? やった?』って。」


「……うん。」


「それを聞かれるのはまだいいんだけどさ。たまーに…『早くやっとかないと寝取られるぞー』とか、…『劣化しないうちにやっちゃいなよ』とか、あいつら面白がって冗談半分に言ってくることもあってさ……カチンと来たよね、さすがに。」


「…なんて言ったの?」


「……ふつーに、『ふざけんな』って。そしたら、もう二度とそんなこと言ってこなくなった。」


「それって、ガチめに怒った…ってこと?」


「……はは。そうだったかも……ふ。」



 ……何だか、急に照れくさくなってきた。




 ――ぎゅ。




 後ろから、抱きしめられた。




「………………好き。」



「…………なゆう、…………っ」


 そして、そのまま……首筋にキスされた。

 何だか……ぞわっと、しびれた。



「私……彦星くんに、…すごくすごく、すっっっごく、大事にされてるんだな…って思った。」


「……当たり前。なゆうのこと、…『大切』で、『心配』だから。」



「……………………大好き。」



 ――ぴと。


 背中になゆうの頬が、柔らかく乗っかった。




 ……………



 お読みくださりありがとうございました。

 結構思い切った話を書かせていただきました。ちょっと不安。


 R18完全版はこちらです。なゆうの視点でめちゃくちゃにいちゃいちゃします。


『Far Far Out』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12275004


 何か気が付いたら1万4000文字のボリュームになってた件。


 なるべく直接的な表現は用いないようにしました。結構マイルド目だと思います。たぶん。

 18歳以上の方は、こちらもどうぞ。

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