『雨宿りの女』5

 

      5


 ――灰色の部屋にいる。

 能見家のリビングだ。雨に濡れた能見晶子が怒りに震えている。能見惣一が顔を強張らせて何かを言う。声は聞こえない。

 晶子の激情が爆発する。まるでサイレント映画だ。能見惣一の手が瞬発的に動いて、晶子の頬を叩く。驚きと痛みとで、晶子の動きに空白が出来るが、それも一瞬の事だ。晶子の右フックが惣一の顎を強打した。

 ――なるほど。なかなかどうして、いい一撃だ。

 麻來鴉は光闇分かたれた過去の情景の影で一連の流れを眺めていた。

「人間は――」

 隣に、誰か立っていた。十文字ではない。魂を抜かれた能見惣一でもない。

「人間は繰り返す生き物」

 頬のこけた、生気のない女性。

「能見……里穂さん」

 仏間の水たまりから繋がっていた異界の浜辺で出会った時と同じ。彼女の肉体はすでに滅び、ここにいるのは擦り切れた魂だけだ。

 麻來鴉は自身もまた、曖昧な状態である事に気が付いた。この空間で自己を認識する麻來鴉が、まだ肉体を保ったままだという保証はない。ここはモノクロの白昼夢の中で、思考する麻來鴉でさえ、夢の一部かもしれないのだ。

「人間は繰り返す」

 能見里穂は言った。

「繰り返してしまう」

「何を?」

 麻來鴉は夢幻の中に踏み入った。

「悪い事を、全部」

 能見里穂の手に、木製の十字架が握られている。

「前夫は、いい人でした。一生懸命な人でした。私たちを幸せにしようとしてくれました。私たちを幸せにしようと頑張ってくれました」

 麻來鴉は辛抱強く待った。このモノクロフィルムの世界では、麻來鴉の自由などない。

「でも、最後に悪い事をしました」

 ぽつり、と。

 天井から水滴が落ちた。

「あの人は、アレを呼びました。たくさん雨が降った、あの夜に」

 ざあっと、地面に雨粒がぶつかるのが聞こえる。


      ………


 次の瞬間、麻來鴉が立っていたのは、能見宅の居間ではなかった。もっと古くて、狭い家だ。相変わらずモノクロの世界。洋服箪笥、その上にはプラスチックの大きな箱があり、その中にも服が仕舞ってある。かと思えば、子供服は床に脱ぎ散らかされたままだ。何かの書類や、請求書らしい封筒、土地や財産に関する書籍が部屋の隅にぶちまけられている。

 奥に部屋が見えた。中にベッドがある。誰かが眠っている。顔が見える。小さな、女の子。

 ――能見晶子。幼い頃の。

 では、ここはおそらく――……

そこで麻來鴉は、木の板の床に描かれた。不可解な模様に気が付いた。

円の中に、X状に交差する二本の線。区分けられた四つの領域にヘブライ語の単語が一語ずつ。これは天使を呼ぶための魔法陣だ。

 ワルツを踊る男女の人形が、棚の上で回り続けている。

 そして、レインコートを着た男が、魔法陣の前で何かをぶつぶつと唱えている。

 能見里穂は、床にへたり込んで、呆然とその光景を見ている。

「イイイイイイイ・アアアアアアア・ウウウウウウウウ・エエエエエエ」

 まるで意味を為さない呻き声のようだが、これは呪文だ。魔法陣に描かれているのは四方に対応した黄、赤、青、緑の単語。かつて《黄金の夜明け団》と呼ばれた魔術集団が開発した儀式だ。

「ありがとうございます……ありがとうございます……天使様……天使様のおかげです」

 男の声が聞こえた。人間だった頃の葦谷行男の声が。

「天使様のおかげです。天使様のおかげでお金が元に戻りました。これで会社が生き返ります。これで家族三人暮らしていけます……」

 雨音が強くなる。外から……ではない。中だ。魔法陣に雨が降り注いでいる。雨粒の一つ一つが繋がり、ぼやけた人型となり、やがて翼が生えて鮮明になる。

奇妙な笑みを浮かべた天使が、そこに立っていた。

偶然出会ったのではない。

行男は自ら天使を呼び出していたのだ。

「お礼を差し上げます。お礼を差し上げます……」

 フードを脱いだ行男が恍惚とした表情で天使の足元に跪く。

「オレSaしアゲマス……レイをゲまス……」

 天使が面白可笑しそうに行男の言葉を繰り返す。

「何、お礼って……ねえ、どういう事?」

 口を開いたのは、里穂だ。里穂の顔面は蒼白だった。

「お礼だよ。天使様に奇跡を起こしてもらったんだ。ちゃんとお礼をしないと罰が当たるだろ」

 至極当然の事のように、行男が答える。

レイはナン出須DEATHか? おれナんデ須可スか?」

 行男は陶然とうぜんと天使の顔を見た。

「天使様が望まれるものを、何でも――」

 途端に、溶けた灰が固まったような天使の指が、ある一点を指差した。

 指の先で、小さな娘が眠っている。

「やめて!」

 悲痛な叫びが聞こえたその時には、すでに行男が寝室へ向かっていた。

「やめてよ! ねえ、お願い! わたしたちの子どもでしょ!?」

 行男の顔は笑っていた。

「里穂、あの子は天使様の元で暮らすんだ。大丈夫、ずっと一緒だよ」

「行男さん!」

 里穂の制止を振り切って、行男は眠っている晶子の体を抱え上げる。

 麻來鴉には何も出来ない。これは過去の再生。録画を見ているようなものだ。すでに結末は決まっている。

 ただ、生身でもないのにひりつく緊張感が、身動ぎひとつ許さない。

「……おとうさん?」

 行男の腕の中で、晶子が目を覚ました。

「晶子、お前は幸せだ。天使様に選ばれたんだ」

 異様なものを感じる。目の前の光景に、ではない。この過去の再生でしかない空間内に生じている気配。霊能の者が持つ特有の予感が働いている。

 何か、何かがおかしい――

「てんしさま……?」

「そうだ。お前はこれから、天使様にお仕えするんだ。天使様がうちを守ってくれる。そして晶子は、その天使様に仕える。ずっと一緒だ。お父さんとお母さんと晶子は、ずっと一緒なんだ」

 戸棚のガラス戸が不意に軋んだ。気が付くと、里穂の姿が見えない。

 行男は、天使に向かって抱きかかえた晶子を差し出す。

「いや。やだよ……おかあさん!」

 晶子は母親に助けを求めるが、灰色の手がすでにその体へと伸びている。

「あああああっ!」

 突然、雄叫びを上げて、里穂が行男の背中に体当たりする。晶子の小さな体が床に投げ出された。呻き声が聞こえる。行男の背中に刺さった包丁が見える。

「晶子!」

 額や膝を打って泣き叫ぶ晶子を抱きかかえ、里穂は玄関へ向かって駆け出し、次の瞬間、何かとてつもなく強い力で吹っ飛ばされた。

 天使は、笑って見ているだけだ。

「里穂ぉお……」

 自分の血で真っ赤に汚れた行男の手が、里穂に、その腕の中の晶子に向かって伸ばされる。

「渡せ……天使様に、晶子を……」

Iハなん出巣ですカ? オれイは何デthカ?」

 異様な力の高まりを感じる。過去の光景の中にいるというのに、まるでその場所に実際に立っているかのような緊張――

 誰だ。これは。一体誰が……

「――や、めて」

 小さな口が動いた。

「オ令歯奈れぃWaナんデ素伽すCa? おレいハ――」

「やめて!」

 晶子の口がそう叫んだ瞬間、それまで沈黙していたコンロが点火され、たちまち炎の渦となって天使へ襲いかかる!

「天使様ぁっ!」

 天使を飲み込んだ炎は、あっという間に床に、壁に燃え広がる。行男が喚き散らしながら炎の中に飛び込む。その後ろで、何とか立ち上がった里穂が、晶子を連れて玄関へと急ぐ。

炎が、全てを埋め尽くしていく。三人の家族が暮らしていた小さな家の、全てを。

 ――聞こえる。雨音が。

 天使の嗤い声が。


「――――あれは、欲しいな」


      ………


「おい、いい加減に起きろ! 麻來鴉!」

 十文字の声に目を覚ました瞬間、麻來鴉は膝をついた。信じられない事だが、立ったまま眠っていたようだ。全身が汗で濡れている。現実を認識する暇もなく、襟首を掴まれ、強引に身を起こされる。

「立て! ひざまずいている場合じゃないぞ!」

 十文字の太い腕に引き摺られ、麻來鴉はソファの影に入る。

「何? 一体何なの?」

「何を言っているんだ。お前が自分で言ったんだぞ。助かる手段はこれしかないってな。おかげで、俺達は家に潰されずに済んだが……」

 ずり、ずるり、ずり。

 何か、重たい物を引き摺っているような音がする。

 不意に、麻來鴉の手の甲を、何かが這いずる感触がした。

 赤い、百足だ。

『入った入った入った入った入った入った入った入った入った』

 黒い靄の塊が、その中の大きな目玉が、ソファの影に入った二人を見下ろしていた。

「くそっ! 見つかちまったか!」

 麻來鴉は一瞬呆けた。何故こいつがここにいるのか。何だっけ――……。ああ、そうだ。確か家が潰される前に。

『入る入る入る入る入る入る入る入る入る入る入る』

 黒い目玉が近付いて来る。邪気の塊。精神を侵食するものが――

「そうか。解除したんだった、術」

「あ? おい、麻來鴉!」

 麻來鴉はおもむろに立ち上がり、靄の中の目玉を睨み付けた。

「さっきはイアーのルーンで地に帰したけど、それやるとまた家ごと潰されるから、ね――」

 言うや、麻來鴉は素早く目玉の前に指を走らせ、稲妻のようなルーンを描く。

「〝輝けシゲル〟」

 靄の体の表面に描かれた稲妻の如きルーンが爆発したような音ともに炸裂する。

「今度は帰さない。このまま消し飛ばしてやる」

 ぼっ、ぼっ、と、ガスが噴き出すかのように、大きな目玉の黒い靄が、削られた部分を修復していく。それだけではない。ドア隙間や、フローリングの下から、同じような黒い靄が噴き出し、二体、三体と目玉を一塊の怪異へ変じていく。

「ひー、ふー、みー……八つか」

 麻來鴉は首を回した。両手の指を絡めて少し曲げると、ぱきっと骨が鳴る。体が凝っている。

「まだちょっと寝ぼけているんだけど、急いでいるからね。パッパと行くよ」

 黒い靄たちが麻來鴉をせせら笑うように、その不定形の体を震わせる。次の瞬間、麻來鴉の体に入ろうと飛び掛かってきた靄の群れに麻來鴉は指先を走らせた。

照らしケン輝けシゲル勝利テュールの剣」

 宙に描かれた三つのルーンが輝き、光の剣となって猛然と迫る邪気の塊を一閃する。霧散した黒い靄たちは、しかし火口から湧いて出る雲のようにすぐさまその体を修復する。

浄められよベオーク

 すかさず麻來鴉は浄化のルーンを描いた。この家に溜められた相当量の邪気が形を成している。根っこ叩かねば。

「この家に施された悪しき術。過去を繰り返す災いの渦――……」

黒々とした靄が伸ばす触手のような悪しき干渉をかわしつつ、麻來鴉はマントの内側からルーンが刻まれた石を取り出す。

 邪気がより濃い場所を探す――ワルツを踊る男女の人形を見る――男も、女も、その顔は人を嘲笑うかのように歪んでいる。あれは天使あいつの顔だ。

「踏み潰せ、スレイプニル!」

エオーのルーン・ストーンを放り投げると、実体化した八本脚の馬が回転する人形を蹴り飛ばす。

 壁にぶつかった人形は胴体の半ばから砕け、陶器が割れる鈍い音を立てて転がる。

 その瞬間、けたたましい哄笑こうしょうがリビングに響き渡った。

 砕け散った人形の胴体から溢れ出たのはドロドロとした黒い粘塊ねんかいだ。

浄められよベオーク!」

 すかさず指を走らせ、浄化のルーンが粘塊に転写てんしゃされる。湯気ゆげを立て、粘塊は溶けるように消失する。

 リビングルームにうごめいていた黒いもやが、途端に制御を失ったかのように奇怪にくねりはじめた。一度、ある場所に溜まってしまった邪気は地に帰すか浄化しなければ消える事はない。呪詛として、永遠にその場所に残り続けてしまう。

「ちっ。まだ――」

「伏せてろ、麻來鴉!」

 ぬっと大男の影が立ち上がり、銀鎖ぎんさのロザリオを振り回す。片手には開いた聖書を持っている。

「〝Marcam chapter 5 verse 8〟!」

 叫びながら十文字が、天井高く何かを放り投げた。小瓶だ。白い粉が入っている。

「〝汚れた霊、この人から出て行け〟!」

十文字はロザリオを振り回し、十字架を落下する小瓶に叩き付けた。

 白い粉が霧散した。粉は、瞬く間に広がって、まるで吸いつくかのように部屋中の黒い靄を吸収していく。

「塩……?」

 決して強くはないが、部屋中に舞う塩の中に麻來鴉は霊力を感じ取った。浄化の念を込めた際に宿ったのだろう。無論、この塩を準備したのは――……

「はあ、はあ……」

 十文字は両手を膝につき、息を切らせていた。曲がりなりにも聖書と魔除けを使った術だ。正式に退魔屋としての修行をしていない十文字は、これだけでも相当体力を消耗するのだろう。

「やるじゃん。あんたの魔除け道具も」

「冗談じゃない……俺はあくまで霊能コンサルタントだ。悪霊祓いは本職に叶わない……」

「ただの邪気だよ。まあ、助かったけど」

 十文字が唱えたのは、かのレギオンを祓う際にイエスが言った言葉だ。マルコによる福音書第5章8節。大量の邪気を祓うなら、確かに効くだろう。

「十文字、今何時?」

 外の景色がさっきと違う。まだ真昼くらいのように見える。

「一時十五分。なあ、麻來鴉。まずは説明してくれ。一体何が起こっていたんだ。家が押し潰されそうになる直前、時刻が夕方だったのは覚えている。だが、気が付けば時間はまだ昼間で、俺達はリビングで呆然としていた。当然、家も潰れちゃいない。一体何がどうなっているんだ」

「これだよ」

 麻來鴉は床に散らばった陶器の人形の破片を手に取った。

「それは……?」

「こいつが天使様の術の媒介。自分が目にした体験や術を繰り返す。わたしのイアーのルーンや、異界で使ったベムブルの技を繰り返された」

「繰り返す?」

「気を失う前、泥が降ってきたでしょ。空にはイアーのルーンがあった。あれはわたしがこの家の敷地に入った時に使ったルーン。家を潰す時に見えた天使の幻影は『破砕しろ』と言った。これも、わたしが異界で奴と戦った時に言った言葉と同じ。あいつの主たる術はあくまで受け身で、事象を反射しているだけ」

「CDみたいなものか。記録して再生する?」

「完全な再生ではなく真似てるようなものだけどね。時間感覚が狂っているのは、わたしがこの家に入った事で天使様の術が発動したから、この家自体が現実から切り離されていたんだと思う」

 過去の事象をなぞる術の性質上、その圏内では時空が歪むのだろう。

「家が壊れていないのは?」

「あの時――家が潰されそうになった直前、この『事象を繰り返す』という術の仕組みに気付いわたしは、まず墓のルーンを解除したの」

「?」

 要領を得ないという顔をする十文字に、麻來鴉は続けて言った。

「つまり、『事象を繰り返す』という術の特性を利用したのよ。術の中の事象が『繰り返される』のなら、『術を解除する』という行動を起こせば、勝手にそれを真似て『家を潰す』という術を解除するんじゃないかなと思って」

『家を潰す』という事象の元は、麻來鴉のベムブルによる天使様を押し潰した時のものだ。麻來鴉の『術の解除』が反映されるなら、天使様の術も解除されるであろう。一種の賭けだった。

「なるほど……。ともあれ、能見さんの魂は攫われたままだ。青梅の墓地に行かないといけないが……奴に勝てるのか、麻來鴉」

「勝つか負けるかで考えていたら勝負にならない。そういう相手よ」

「どういう意味だ?」

「真っ当な戦いにはならないってこと」

 能見惣一は台所の影に隠されていた。肉体は生きているが、衰弱している。エオとシゲルの指輪は手に握ったままだったので、それを左右の指に嵌めておく。

 時間がない。策はある。だがあともう一押し欲しい。

「十文字、ちょっと手伝ってくれる?」

 昼の日差しが強い。穏やかな空気とは対照的に、この家には未だ天使が残した湿っぽい怖気が残っている。

「それと、あなたにも……」

 麻來鴉は後ろを振り返る。

 リビングに、うっすらと女性の両足が見える。


 時計の針が二時を少し過ぎた頃、車は目的地の墓地がある寺に到着した。

 立ち並ぶ墓石に降り注ぐ日差しが少し暑い。だが太陽の温度が、今、麻來鴉が存在するこの場所が、間違いなく現世の、現実の場所である事を証明している。

 能見晶子は、墓の前に座り込んでスマートフォンを弄っていた。麻來鴉たちの接近に気付くと、スマートフォンをポケットに仕舞い、億劫そうに立ち上がる。

 その両目は、赤銅色に染まっている。

「まさか、待っててくれた?」

 麻來鴉の挑発混じりの言葉に、晶子の眉根がぴくりと動く。

「天使様が言ったんだよ。ここで待ち構えていて、お前らをまとめて殺そうってさ。こんなに時間がかかるとは思っていなかったけどね。死ななかったんだ、あの家で」

「はっ、若い娘っていつもそうよね。強い言葉使ってりゃ自分が強くなったと思ってる。天使様頼りの小娘がイキってんじゃねえっての!」

 赤い目の晶子が鬼の形相になるのを見て、麻來鴉はにやりと笑った。

「十文字、下がっていて。能見さんを頼んだよ」

「ああ。そっちは任せるぞ、麻來鴉」

 能見を背負った十文字があとずさる。

 晶子の背後が揺らめき、どろりとしたコールタールが空中から流れ出す。灰色の天使が姿を現した。さっきまでと少し違うのは、両翼あったはずの象形文字のような翼が、今は片方しかない。

「やっぱり。あの家の術はあんたの力の一部を置いていたのね。術が破られれば、当然その損失はあんた自身に返る」

 力が弱まっているはずの天使は、それでもやはりあの嘲るような笑顔を繰り返すだけだった。

「天使様は余裕だって言ってるよ。お前がどんな手品を用意しようと無駄なんだよ、このクソ魔女!!」

「あーあーなんて汚い言葉なんでしょ、この娘ったら」

 言いながら、麻來鴉は懐からルーン・ストーンを取り出し、

「お父さんに叱ってもらわなくちゃ、ね?」

「天使様ッ!! ブチ殺して!!」

 ゆらりと天使の影が動く。

「ブ地子ChiコSiゲ――」

「あげられないから。あんたの好き勝手もここまでだよ、天使様」

 地面に放り投げた平べったいルーン・ストーンが軽く回転し、

 ――その上に、一匹のアマガエルがぴょこんと飛び乗る。

「……カエル?」

 その少女の声は、正真正銘の驚きか。

「〝ラグ〟」

 ぱちんと、麻來鴉が指を鳴らし、

「――ゲコ」

 アマガエルが、一声鳴く。

 その瞬間、ぽつりと、雨雫が石畳を濡らした。

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