電車の中で
新しい学校に通い始めて一週間が経過した。友達はまだできていないが授業などは凄く分かりやすい。けれど電車通学が長いためいつも電車の中で退屈している。持ち歩いている本も途中で読み終わってしまう、そんな時はいつも通学カバンに顔を埋めて着くまで居眠りしている。幸い学校がある町の駅が終点のため寝過ごすということはない。しかし今日はカバンに顔を埋めても眠気がでてこない。あと終点に着くまで6駅もある。仕方がないから窓の外の景色を見ていた。
(あの時聞いた声と姿は何だったんだ…?)
景色を見ながら先日に起きたことを考えていた、あの声と姿は間違いなくユズリだった。
まだ私は過去の後悔が残っているのか…?
そのせいなのか分からないが私の夢の中でユズリが出てくるようになった、とは言っても今のところ私の視界の隅に映る程度である。もしかしたら私は彼女に許して欲しいと心の底でいつも願っているのかもしれない。
「ユズ…」
私は昔の彼女の呼び名を誰もいない電車の中で呟いた、それと同時に電車はトンネルの中に入り私の声は電車の騒音でかき消された。
トンネルに入ると電車内の蛍光灯の光が窓に反射して私の顔が窓に映る。その時対面の座席に座っている人の顔を見た。私は息を呑んだ、窓に映ったのは学校の階段で見た女性
ユズリだった…。私の頭はパンクしそうになった、何故彼女がここに?いつから居たのか、色んな考えが一瞬で頭を回った。ユズリは何の表情も作らずずっと私の方を見ていた。
「ユズ…リ?」
私はそっと彼女の名前を呼んだ、しかし人形のようにユズリは全く反応しない。ただ私の目を見ている。どうして?どんな事を考えても私の頭の中はその答えしか浮かばない。
また勇気を出し声をかけようとすると急にユズリは座席から立ち上がり電車内を歩いていき次の車両に行く扉をおもいっきり開けた。その時車内に強い風が吹き抜けてきた。よく見れば次に繋がっているはずの車両はそこにはなく先にあるのは暗闇の空間だった。ユズリは何もない暗い空間に進もうとしていた。私は咄嗟に立ち上がりユズリがいる方へ走り出した。けれどいくら走ってもユズリに近づけない。
「待って!!そっちは…!!」
私の声が聞こえたのかユズリは私の方へ振り向いた。振り向いたユズリの顔はさっきの真顔とは違いどこか悲しそうな顔をしていた。
「ミサ…」
私の名前をそっと呼んだ彼女は暗闇に進んでいった…
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