第十八話 許可
ケンは立ち上がり、両親とルイに頭を深々と下げました。
「ポワリエ侯爵夫妻並びにルイ・ロベルジュ様、お嬢様と結婚を前提にお付き合いさせていただけないでしょうか? どうかよろしくお願い致します」
「ケ、ケン……いきなり何を言い出すかと思ったら……」
私は真っ赤になってしまいました。確かにケンとの交際を両親とルイに認めて欲しいという気持ちは同じでした。でも私はケンの居ない時、後で彼らにこっそりと報告するつもりだったのです。
「へぇ、交際の許可をもらいたいって、何を今更言っているのかな、君は。事後報告じゃないか。二人はもうずっと前から付き合っているのでしょ。ルイから聞いているよ」
父の指摘に私は顔が更に赤くなってしまいました。
「はい。ご挨拶が遅れてしまって申し訳ありません」
ケンは頭を下げただけでなく、更に床に膝までついています。謙虚な態度ながらも堂々としたケンに私は感動せずにはいられません。
「ケネス・ミショー君、アレックスは私達のたった一人の女の子で、手塩にかけて育ててきたのだよね。だというのに何と王宮での仕事を辞めてペルティエ領に単身引っ越して庶民の間で働くことにした、なんて言い出すから……アレックスが我が家を出る時はお嫁に行く時だとばかり思っていたのに……親としては心配で心配で……」
「ミショーさん、この人の言うことなんて聞かなくてよろしいわよ。娘のことをお願いしますね。ベン、いい加減にしなさいよ」
「おいっ、ソニア。テーブルひっくり返したり、土下座させて胸ぐらを掴んで『よくもうちの娘を
「ははは」
ルイはたまらず笑い出しています。
「ルイも何か言ってやれよ、彼が君にも頭を下げているっていうことは君とアレックスの関係も知っているのだろうしね」
「そのようですね。私は前回来た時にミショー様と膝を割って話をしました。彼の気持ちに偽りがないことはもう分かっています。それにアレックスから私との関係を既に教わっていることからもミショー様はもう彼女にとって特別な一人の人なのでしょう。アレックスが彼に向ける表情を見れば親としては反対できませんよね。私は何も申し上げることはありません」
ケンの前でもルイは私のことをもうアレックスと呼んでくれるようです。
「ミショーさんはこれからも大変よね、アレックスには過保護で心配性な父親が二人も居るのですから。その代わり私はクールで物分かりの良い母親よ。こんな素敵な義理の息子ができるとしたら嬉しいわ」
「義理の息子ぉ? どうして既にそうなるのさ!」
「ベン、落ち着いて下さい。でも確かにソニアは気が早いですよね」
ルイが両親のことも旦那様奥様でなく名前で呼んでいます。ケンのことを本当に家族の一員同然とルイが認めたからです。私は言いようのない幸福感に満たされていました。
「お父さま、お母さま、ルイ……ありがとうございます」
その日の晩はペルティエの街で両親とルイとケンも含めた皆で食事をしました。
父の機嫌も少しは良くなったようで、私の小さい頃の話をケンに色々聞かせているので私はほっとしていました。
明日は両親に街を案内したかったのですが、無理をするなということで私は出掛けないことになりました。明日はマルゲリットさまと領主であるペルティエ男爵に挨拶をしていくと両親は言っていました。
「私たちのことは心配しなくていいのよ、アレックス。ゆっくり休んでね」
「マルゲリットさんにはナタニエルや御実家から色々と預かってきている物を届けて、それから領主のペルティエ男爵に挨拶して、その後はすぐに王都に帰るよ」
「そうですか……サムは一人で留守番なのですものね。初めてで寂しがっているでしょうね」
「サムはダニエルの所に預けてきたわ。その方が安心だったから」
私の幼い弟ももう貴族学院に通っていますが、まだまだ子供なのです。兄の家に居ると聞いて安心しました。
「アレックス、今度まとまった休みが取れたら王都に帰って来なさい。分かっているよね」
「はい、お父さま」
「その時は私もお嬢様にお供致します。今度は山賊が出ても彼女には指一本触れさせませんから」
「まあ、頼もしいわね。そう言えば私たち三人から先日のお礼をミショーさんに直接言いかったのですよ。アレックスが無事ペルティエ領に着けたのも貴方のお陰ですわ。お世話になりました」
「いえ、とんでもございません。お嬢様には怖い思いをさせてしまいました。実際は彼女の機転に助けられたというのが本当のところでして……面目ないです。しかも十分過ぎる報酬までいただいていたというのに」
「命は金には替えられないのだから、君にはそれを受け取る資格があったよ。娘を守ってくれてありがとう」
「何だかんだ言って、ベンはミショー様のことを認めていらっしゃるのですよね」
「ルイはいつも一言多いんだよ」
ルイが父のことをからかい、父が少々拗ねています。執事のルイが主人である父にこんな態度をとって、父がルイに対してここまで親しげになるのは家族の間だけなのです。
「あれからあの山道もより整備され、警護団が見回りをするようになって、山賊に襲われる危険は激減しました」
「それも貴方があの時の一味を全て捕えて下さったからでしょう? たったお一人で何人も相手になさったのですってね」
「ええ、お母さま。ケンはとても強いのよ」
どうして建材屋に勤めている彼があのように剣の腕が立つのか、以前は不思議でした。その理由を私は昨日彼のご家族に会って確信したのです。
「私達はそろそろ宿に戻るとするか。アレックスも疲れたろう?」
「お休みなさい」
「私達の大事なアレックスを送る栄誉ある役割は君に譲るとするか」
「はい、お任せ下さい」
「ゆっくり休むのですよ、アレックス」
両親とルイはすぐ近くにとってある宿屋に帰り、私は宿舎までケンに送ってもらいました。
「ケン、色々ありがとう。あの、入る?」
「そうしたいのは山々なんだけど……俺は明日の朝早いしさ、お前の親父さんが、ルイさんの方だったかな『ゆっくり休みなさい』ってやたら強調していたから……今晩のところはちゃんと休め」
「うふふ……」
ケンは私をギュッと抱きしめて唇にキスをした後、すぐに帰っていきました。
***ひとこと***
アレックスのお兄ちゃんルイ=ダニエル君は既に家庭を持っていて、もうすぐ第一子が誕生予定。あの天真爛漫な弟サミュエル君は十四歳で貴族学院の騎士科に通っています。
さて、ケンは保護者トリオそれぞれにきちんと認めてもらえたようです。良かったね、ケン。
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