VOL.7
東京都下、とはいっても、C市はまだ周辺には田畑や雑木林が残っているという、極めてのどかな雰囲気だった。
それでも一応市は市だ。
人家や学校などもそれなりにあるが、流石にその『空港』のすぐそばはまだ開発されておらず、フェンスがずっと続いており、その隣に車が二台すれ違えるだけの道路があるきりだった。
空港、とはいったものの、そこは主に個人用の小型飛行機とヘリコプター専用で、不特定多数の客が訪れるという場所でもない。
ゲート付近には警備員が立っていたものの、それ以外は事務所と待合室のようなモルタルの建物があるきりだった。
追跡してきたワゴンとセダンを振り切り、到着した時は、きっかり1時間、いつもながらジョージの運転技術には脱帽するしかない。
車から降り、辺りを十分に警戒しながら建物の中に入る。三階建てになっていて、一階はがらんとしたフロアで、ソファが一つ、後は自販機が二台あるきりで、
そのソファの片隅に、女が一人座っていた。
セミロングの黒髪、黒いコート。顔の半分を覆うような、大きなサングラスをかけた、背の高い女だ。
彼女は俺達の足音に反応すると、はっとしたように顔をあげ、そこに和也の姿を認めると、サングラスを外した。
鋭い目をしたあの女・・・・本田紗香だった。
『マ、ママ?』
和也が二・三歩前に出る。
と、俺達の背後で車の音が聞こえた。目を凝らしてみると、そこにはワゴン車と、黒いセダンが停まっていて、中から六~七人ばかりの男たちが建物の中に入って来た。
手に手に物騒な飛び道具を携えているのが、はっきり分かった。
瞬間、彼女は素早い動作でコートの中に手を突っ込んだ。
俺はその手を押さえ、小さく言った。
『ここは俺達に任せろ』
最初に撃って来たのは向こうだった。
『ジョージ!』
『おう!』
ソファを倒して盾にする。
迷うことなく、俺はM1917を、ジョージはスリング・ショットを取り出し、立て続けに連射する。
銃は向こうの方が遥かに上等だったが、どうやら腕前は大したことはないらしい。
骨とう品同然のM1917と、ジョージのスリングショットでも、瞬く間にやられてしまった。
二階から荒々しく足音が聞こえ、事務員が下りてくると同時に、どこからかパトカーのサイレンが鳴り響いてきた。
『何でここへ来た?』
『探偵がドンパチなんかやらかしやがって、いい気なもんだ』
『後で事情を聞くからな。報告書を忘れるな。それから地元の警察に出頭するのを忘れるな?!』
俺達は何も喋らず、当たり前のように頭を下げ、わかったようなふりをしながら、横目でちらりと六人の外国人が数珠つなぎになって護送車に乗せられていくのを見ていた。
黒いコートの本田紗香も事情を聞かれたらしいが、彼女は『ここには飛行機に乗るために待っていたに過ぎない』とだけ答え、子供の肩をしっかり抱きしめ、後はカキのように無言の行を行使した。
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