VOL.6

 午前六時、彼が目を覚ました。その日は丁度土曜日、つまり彼は三連休と言う訳だ。


 三日間は学校の心配をしないで済む。


 軽い朝食・・・・牛乳とパンだけだが・・・・を済ませた後、俺は和也に昨夜掛かってきた電話について話した。


『母です。それ』


 彼は即座に答えた。目が輝いた。


『その曲、母が好きなんです。だから母の専用着メロにしてあるんですよ』


『そうか、やっぱりな。そうじゃないかと思った。だとしたら君に悪いことをした。起こしてでも代わるべきだったかな』


 彼は少し目を伏せたが、軽くかぶりを振り、


『いいえ、母が生きていると分かっただけでもいいんです。』


 同時に備え付けの電話が鳴る。


 受話器を取ると、不愛想な声が俺の耳に届いた。


”さっき妙なのが二組訊ねてきたぜ。一つは白人、もう一つは・・・・あれはどう見ても東南アジアかチャイニーズだな。どっちも又来るといって帰っていった。”

”おっと、二日分の割増しを忘れないように”

 抜け目のない男だ。


 受話器を置き、振り返って和也の方を見る。


 いつの間にか、彼はもう身支度を整えていた。


 察しのいい少年だ。


 続けて俺は携帯を出して、ジョージにかける。


 奴は眠そうな声で、またかよ。などと愚痴っていたが、最終的には、


”分かった。直ぐに行ってやる。20分は待ってくれ。その代わりチップは頼むぜ”


 それだけ言うのは忘れなかった。


 きっかり20分後、ジョージから連絡があった。

”お待ちどう、着きましたぜ。旦那”

 部屋を出る前、俺は備え付けの封筒に残りの金と部屋のキーを入れ、ドアの下に挟むと、エレベーターを使わずに階下へと降りる。


 カウンターの方を見やると、マスターが新聞を広げているのが見えた。


 その前には、昔のギャング映画に出て来るようなナリをした男が二人、エレベーターが下りてくるのを待っている。


 新聞の陰から俺達の姿を認めたマスターは、


(早く行きな)とでもいうように目配せをする。


 俺達は裏口を出ると、そこにはきっちりと、ジョージが黒の4WDで入り口をふさぐように止まっていた。


『急げよ。5分遅刻だぜ』


 俺はまず和也を押しこみ、続いて俺が乗り込み、シートベルトを締める間もなく、

『出すぜ!』


 アクセルを踏み込み、タイヤを軋ませながら、狭い路地を駆け抜けた。


 右折すると、ホテルの前の道路にワゴン車とセダンが少し距離を開けて二台停まっている。


 中にいたさっきの黒づくめ二人組が飛び出し、ワゴンに飛び乗る刹那、後ろにいたセダンが急加速をして先に走り出し、追跡してきた。


『来たぜ、旦那、どこへ行く?』


 ジョージがそう言った時だ。


 和也の携帯がジュリー・ロンドンを奏でた。


 俺が頷くと、彼はすぐさま取り出す。


『もしもし・・・・僕です。和也です。』


 彼はそう言って1分ほど話し、そして俺の方を振り向いて言った。


『C飛行場です。1時間以内に行けますか?』


『どうだ?』


 運転席のジョージに声をかけると、彼は黙って右手の親指を立てて見せた。


『心配ない。』


車は更にぐっとスピードを上げた。

 


 

 


 

 



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