VOL.5
2時間の間、東京中をあっちこっちと走り回った。流石に走り屋のジョージだ。敵が何人いても、彼の
そうしている間にも、俺は彼が覚えている限りの手がかりを探ったが、どこもみんな空振りだった。
俺と和也が徒労を抱えて最後にたどり着いたのは、池袋の裏町にある安ホテル・・・・ビジネスホテルというほどでもなく、かといってカップル御用達の『連れ込み』の類でもない。
三流のクラークゲーブルみたいな、蝶ネクタイを締めた
『部屋、あるかい?』
主人は読みかけのスポーツ新聞から顔を上げ、カウンターの向こうから眼鏡越しに俺と少年の顔を交互に見比べ、
『ツィンなら一泊一万五千。メシはなしだ。あんたなら前金で頼む』
ブスっとした声で言う。
俺は財布から福澤先生と明治の女性文豪を一枚づつ出し、カウンターの上に置く。
『頼まれてくれないか。もし誰か俺達を訪ねてくる奴がいたら、直ぐに知らせてくれ』
俺は和也を促してエレベーターに乗る。
『ならもう五千円プラスだ。揉め事は御免だぜ』
仕方ない。俺は樋口女史をもう一枚引っ張り出して重ねた。
『502号室』そう言って親父は後ろからキーを引っ張り出す。
『ごゆっくり』
親父はそう言って、またスポーツ新聞を読み始めた。
部屋は大したことはない。
ベッドが二つ、
バス兼用トイレ。
後はクローゼット。
それに何故かレオナール・フジタの
荷物を下ろし、俺達は取り合えずここへ来る途中で立ち寄ったコンビニで買ってきたサンドイッチとペットボトルのコーヒーで夕食を済ませた。
”風呂はどうする?”
俺が聞きかけた時、彼はもう立ち上がり、
”すみません。僕はもう寝ます。ごちそう様でした”
欠伸交じりにそれだけ答えると、倒れるようにしてベッドに潜り込んだ。
俺も寝ようかと思ったが、止めておいた。
こう見えても彼に雇われた身だ。
暢気に眠っていられるわけはない。
取り合えずシャワーだけは浴びさせてもらい、またベッドの側に戻った。
・・・・何時間経ったろう?
彼はベッドの中で軽い寝息を立てている。
俺は枕元にある肘掛椅子に腰かけ、さっきからもうシナモンスティックを五本も齧っている。
幸い、予備を持ってきてはいるが、それだっていつ無くなるか分かったもんじゃない。
和也はベッドの中で寝がえりを打ちながら、時々小さな声で寝言を口にする。
夢でも見ているのだろうか。
時計をちらりと見た。
午前零時をとうに回っていた。
少しうつら、としかけた、丁度その時である。
どこかで音楽が流れた。
気のせいかと思ったが、そうではない。
俺は暗闇の中で目を凝らし、意識を集中させた。
どうやらその音楽はベッドの足元、彼の持っていたザックの中から聞こえている。
ザックの横についているポケットのジッパーを開けると、音源はそこにあった。
スマートフォン。
そのメロディは『end of the world』
着信ボタンを押す。
”もしもし、カズヤ?”女の声だった。
『・・・・』俺はスマホを耳につけ、何も言わずに黙って聞いている。
”あなた、誰?”
向こうが問い返す。
『本田紗香さんですね。私は和也君に雇われた探偵です』
電話はそこで切れた。
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