VOL.4

 彼がコーヒーを運んできてくれた時、不意にインターフォンが鳴った。

 

 コールボタンを押そうとするのを制して、代わりに俺が出た。


『誰だ?』


『警察のものです。本田さんのお宅ですな?お母さんについて聞きたいことがありまして』

 くぐもったような声で一人がマイクに向かって喋りかけてきた。


 モニターの向こうに、背広姿の男が二人立っているのが映し出されている。


『私は本田和也君に雇われた探偵だ。代わりに話を聞こう。と、その前にバッジを見せて貰おうか』


 モニターの向こうの男は顔を見合わせて、バッジを出した。


 確かにバッジを出したが、本物らしくは見えない。第一見慣れた警官おまわりの仕草とは違う。


 おまけにその面はどこか日本人離れしているように思えた。


『疑うわけじゃないんだが・・・・日本の警察おまわりは、いつから外国人を採用するようになったんだね?あんたの言葉、かなりアクセントが微妙なようだがな?』


』いらついたような声で、もう一人がすごむ。

というのは良くいるが、というのは、流石の俺でもまだ出会ったことはない。


『今時がいるとは思わなかった。俺にだって警視庁さくらだもんに顔見知りくらいはいる。何なら今すぐ電話をかけて来てもらおうか?それともここまで上がって撃ち合いでもするかい?最近は日本の探偵だって拳銃どうぐを持っていいんだぜ?好きな方を選べよ。』


 舌打ちをする音が聞こえ、二人は未練たらしくモニター画面を睨みつけながら、足早にその場を立ち去って行った。


『どうやら君のお母さんは、かなりヤバい・・・いや、面倒な仕事をしているようだな』俺はそういって、コーヒーを飲み干した。


『どんな仕事をしていようと、僕にとっては母は母です。』

 しっかりした子だ。


 ここまで自分の親を信頼し、そして愛している子供なんて、今時そうはいるまい。


『しかし、そうなるとこのマンションにいるのも不味マズいってことになる。誰だか分らんが、向こうはここを知っている・・・・場所を変えるか?』彼は黙ってうなずき、奥に行って何やら支度を始めた。


 担いでいたザックに荷物を詰めて戻って来ると、何かを取り出して俺に見せる。


『僕名義の銀行の預金通帳とキャッシュカードです。残高を確認してみますか?』


『いや、それには及ばん。君は俺の依頼人だ。探偵は依頼人を信頼するもんだよ』


 俺の言葉に、彼はにっこりと笑って返した。


 俺は携帯を出し、ジョージに連絡した。


”悪いがまた頼む。20分で来てくれ。行先は後でいう。出来ればなるべく目立たないやつを用意してくれ”

”おい、旦那、俺はいつからあんたの専属運転手になったんだい?こっちだって暇じゃ・・・・”


”チップは弾む。倍増しだ”


”しゃあねぇなあ”


 ため息交じりにジョージが答え、電話を切った。


『これでよし、じゃあブレーカーを全部落としてくれ。当分帰れそうにないからな』


 俺がそう言う前に、彼はてきぱきと行動していた。



 10分後、マンションの裏手にジョージが車を停めていた。


 確かに目立たない車だ。街中を走ってればどこでも見かける、黒の国産車、5ドアのSUVだ。


『いきなり用意しろなんて、無茶をいうもんだぜ』


『これで十分だ』


『で、どこへ?』


『とにかく1時間、都内を走ってくれ、なるべく出鱈目に、走り方は任せる。最終目的地は追って話す』


『かしこまりました。ご主人様』


 俺と本田和也を乗せると、ジョージは一気にアクセルを踏んだ。



 



 


 


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