02-05 満月の夜

 空は晴。


 台風一過とはまさにこのこと。美しい満月が見守るなか、ただひとりのれ者が場をにごらせていた。


「なあ。本当に撃ってよかったのか」


 リクがしゃべる。銃撃の反動で右肩が外れたリクがしゃべる。


「何度も言ってるでしょ。あれが最適解だと」


 例の依頼から三日ほど経った。バイオテロの主犯は逮捕され、その臣下は散り散りになった。結局テロリストの目論見もくろみは破れ、犠牲者は誰も出なかった。彼女を除いては。


「最適解? よくわからんが、ひとつだけ確かなことがある」


 リクは涙を浮かべながら言った。


「もう二度とやらんぞ。もし次があったなら、ニト、お前がやれ」


 思ったより重症だな。と、ニトは考える。確かに本人の意思とはいえを木っ端微塵にするのは抵抗があるだろう。しかし人間は割り切れるものだ。過去を振り切り今に生きることができるはず。


「はいはい。次はボクがやりますよ。ところで」


 ニトはふところから紙片を抜き出し、リクに手渡した。


「これ。読んでおいてね」


△▼△▼


 リクは怨嗟さけんだ。ニトからもらった紙の文章を読み泣いた。真実とはくも身近にあるものだ、とは誰の言葉だったか。


「俺には…… 俺にはもう、何も残っていない」


 リクはを握りしめうめく。


「ならば我が身をやつそう。深淵の彼方にたたずむ漆黒の猟犬のごとく」


<第2話終>

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