02-04 嵐の中で

 台風が近づいている。

 市内に荒ぶる風雨によって、ニトたちの状況は切迫していた。


「あちゃあ。運が悪いや」


 ニトの隣で、リクが狙撃銃を構えている。


「大丈夫? 狙える?」

「なめるなよ。痛みなどとうの昔に捨て去った」


 アヤが手配した特製の狙撃銃は、精密に対象を射抜けるものだ。が、美点だけの武器は存在しない。当然デメリットはある。


「うん。キミの体は頑丈だ。それは心配ない。ボクが心配しているのはキミの心なんだ」

「…………」

「引き鉄、引けるよね?」

「ああ。……やれる」


 その対象は依頼者の少女だった。


△▼△▼


「ナオによると」


 数時間前。作戦についてアヤがまとめる。


「彼女は名家の娘。名前を訊いても頑なに教えてくれないが、調査により本名は判明している。そして重要なのは、彼女がだということ。バイオテロの犠牲者ね」

「自分で自分が感染していると把握できるのか」

「いや、それは無理。把握するには常にしている必要がある。そして彼女はそれをやっていた」

「なるほど。彼女は周囲の違和感を察知していたんだね」

「そう。彼女はとても頭のいい子。そして」


 アヤは顔を歪ませて言った。


「自分を殺してくれる存在を探していたのよ」


△▼△▼


 リクは集中する。過去を殺せ。今現在にすべてをかけろ。震える指先を自覚しつつそれでも自身の本分を忘れないリクの姿がそこにあった。


「問題ない。キミはやれる」


 ニトがリクに話しかけた。リクは応える。


「ああ。俺はやれる」


 アヤからサインが出た。彼女の周囲に誰もいなくなった、というサインが出た。

 リクは、引き鉄を、引いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る