02-02 死に至る病

「ふむ。事件の全貌ぜんぼうは把握した」


 ナオが自信満々に言う。アヤはため息をつく。


「今の説明で何もかもわかった?」

「わかった」

「まったく。あんたは本当に、本当に意味不明だわ」


 謎の情報屋。それが彼の異名だ。無数の情報の中から真実だけを依頼者に提供する。

 非常に有能な人物だが、問題は真実に至るまでの過程。誰にも理解できない過程を踏んで真実に到達するため、同業者のみならず裏社会全般において気味悪がられている。異常者が異常者を異常と語るのは異常事態だ。


 それゆえ、ナオはうとんじられている。


「あの……」


 少女が口を開く。


「私の話はどこに行ったのでしょう」

「あ! ごめんごめん」


 アヤが反応する。一定の常識を保ちつつ、しかしアヤもまた異常者のひとりなのだ。


「あなたが殺したい相手と理由を教えて」

「はい。殺してください。私の心身は病魔におかされています。……感染するやまいに」


 アヤは困惑した。ナオも困惑した。

 両者とも、少女の意図が読めなかった。少女には死をう感情が全くなかった。


「あなたの名前は? 出自は? 星座は? 血液型は?」

「住所は? 検診録は? 家族構成は? そも病とは?」


 質問攻めせざるを得なかった。なぜなら、有能な情報屋といえど少女の情報が少なすぎて彼女の正体が暴けなかったからだ。


「……え? あの、何から答えれば」

「殺そう」

「うん。殺せばわかる」


 アヤは少女の頭に銃を向け、引き鉄トリガを引い


「おっと」


 た。


「はあ…… 情報収集のスペシャリストが二人揃ってこの決断? 今すぐ廃業しなよ」


 銃声とともに飛来した人影が少女を救い、なかば本気の軽口を叩く。


「に、ニト!?」

「に、ニト!?」


 アヤとナオの声が重なる。ニトは両者を振り返りながら、


「ほんと馬鹿ばっかり」


 と笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る