第2話

02-01 謎の訪問者

 探偵事務所のドアが鳴る。


 複雑に入り組んだ裏路地を通り、その先にある胡散臭い廃ビルに入り、そしてビル内に存在する数多あまたのただひとつを見抜く。当然、一般人には不可能な所業わざだ。


 の扉が再度鳴る。アヤは銃を背に扉を開けた。


「いらっしゃいませ」

「……あの、配達屋さんですか?」


 扉の先に立っていたのは少女。それも極めて年齢の低い。


「配達屋? うちは探偵だし、配達屋なんて知らないわ。運び屋なら知ってるけどね」


 アヤは警戒しつつ慎重に答える。子供をにわか暗殺者に仕立て上げ、対象ターゲットに差し向けるのはよくある手口だ。


「あ! 運び屋さんを知ってるんですね。つまりあなたが殺し屋さんだ」

「やられた。符丁ふちょうもどきか。はいはい、殺し屋ですよ」


 アヤは瞬時に気付いた。この子が何者かの入れ知恵によって、ビル内の人間に訊きまわっていたことを。


「このビルで運び屋知ってるのうちだけだからね。……ま、いいか。入りなよ」

「お邪魔します」


△▼△▼


 アヤは少女を招き入れ、椅子に腰掛けた彼女の前にインスタントコーヒーを出した。


「で。殺し屋に何の用かな」


 少女と向き合い、若干警戒心を解いてアヤがしゃべる。


「学校でいじめられてるとか、そういう生ぬるい相談ならお断りよ」

「学校には行ってません」

「……ん?」

「正確には行きたくとも行かせてくれなかった。ほぼ軟禁状態で、勉強は家庭教師が教えてくれて」


 すぐさまアヤは計算に取り掛かる。少女の依頼が両親の暗殺だった場合、依頼金の引っ張りどころがなくなる。自由を得たいだけなら他に専門の業者がある。いや、そもそもの話、我々の存在を教えたのは誰なのか。それによって得する奴は? 愉快犯の線も追わなくては――


「こんばんは」


 不意に開いた扉にアヤの心臓は飛び跳ねた。が、その声を聞いて落ち着く。馴染みの顔だ。


「おや。かわいいお嬢さんがいるね」

「ナオ。これはでっかい事案の可能性があるから大人しくしてて」


 アヤの嗅覚は正しかった。

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