01-03 上流上級御殿

 天井から機械的に吊るされたシャンデリア。その光は、一つの座影と二つの立影とのコントラストを見事に表現していた。


「まずお前たちに言っておく」


 一見紳士風だが、その身に卑陋ひろうを潜ませた老人が口を開く。


「私は証拠が欲しい。が死んだ、という確かな証拠だ。画像や動画を見たいわけではない。私が何を言っているか、わかるな?」

「もちろんです」

「見たところ、それらしきものは持っていないようだが」

「物事には順序というものがあります。まずはこれをご覧ください」


 老人は差し出された携帯型端末を乱雑に振り払う。


「ふざけているのか? 画像や動画を見たいわけではない」

「ですから、物事には順序というものがあります。まずはこの報告をご覧ください」


:緊急事態発生のため取り急ぎ。:

:事態の詳細は追って連絡する。:


 いぶかしげに端末の画面を見るや否や、老人の顔が紅潮した。


「ふざけているのか?」

「ふざけてなどいません。この文面通り、現在"証拠品"の所在は不明です」


 我慢の限界を迎えた老人は醜い顔をさらに歪ませ、椅子から荒々しく立ち上がる。


「ふざけるな!」

「ふざけてなど」

「いいか。お前らに目がついているのなら、あの壁掛け時計をよく見てみることだ」

「午後四時過ぎですね」

「期限は本日午後六時。何度も確認したことだ。契約を交わした際にな」

「料金は成功報酬となっております。何度も確認したことです。契約を交わした際に」

「…………」


 我慢の限界を超えた老人は歪んだ顔をさらに歪ませ、ニトたちを怒鳴りつける。


「失敗か? 失敗したのか? あらゆる伝手つてを使い苦労に苦労を重ねて辿り着いた先が凡骨ぼんこつの極みとは! 悪癖が出たのだ。またしても私の悪癖が出たのだ。一流の凄腕…… 特級の暗殺者…… 信頼できる筋からならば、たかが噂であろうとも信じてしまうという癖が!」

「まだ失敗したわけじゃないよ」

「あんたは黙ってて。ウメモト様、確かに我々はまだ失敗したわけではございません」

「残り二時間で証拠を用意できるのか?」

「今できることは」


 女は少しばかり困惑した表情を作りつつ、連絡待ちですね、と言った。

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