16

 その黄色い土色の小さな道の上に叶は足を踏み入れる。

 二人はその森の中にある小さな道の上で、また向かう合うような格好になった。

 祈はじっと、叶のことを見ている。

 夏の眩しい太陽の光が、二人のいる森の周囲にはたくさん差し込んでいる。

 祈の体にも、(……きっと、叶の体にも)太陽の光は当たっている。

 太陽の光の中で、祈の姿はきらきらと輝いて見える。眩しく光り輝いている。祈の長くて美しい黒髪が眩しく光を反射している。

 祈は、その太陽の光の中で、その大きな黒い瞳をじっと叶に向けている。

 太陽の光の中にいる祈は、ときどき、その距離が近くなりすぎることがあって、うっかりと忘れてしまうこともあるのだけど、相変わらず、とても綺麗だった。(さっきまで森の木々の間を駆け回っていた小猿のような女の子と同じ女の子だとは思えなかった)

 ふと、祈がその視線を斜め上に向けた。なんだろう? と思って祈が視線を同じ方向に動かすと、そこには木の枝があって、その木の枝の上には子りすが二匹いて、じっと自分たちのことを見ている祈や叶のほうに、ちらちらとその目を向けていた。

 夏の風が、森の木々の葉を揺らして、さらさらという気持ちのいい音を立てた。

 二匹の子りすはそれから少しして、木の枝の上を移動して、さっきの野うさぎと同じように緑色の森の中に消えて行ってしまった。

 叶が視線を祈に戻すと、祈も同じように叶のことをまたじっと見つめた。

 祈はゆっくりと小さな土色の道の上を歩いて、叶のすぐ目の前のところまで移動をした。

「あのさ、手をさ、つないでもいいかな?」

 ちょっとだけ恥ずかしそうな顔で祈は言った。

「手を?」

「うん。なんかさ、急に叶くんと手をつなぎたいって思ったの。……だめ、かな?」

 顔を赤くして祈は言う。

「ううん。全然だめじゃないよ。むしろ僕も祈を手をつなぎたいって、さっきからずっとそう思ったから」といつも通りの顔で叶は言った。それはもちろん、叶の本心だった。

 そんな叶の言葉を聞いて、祈はもっと、その顔をさらに真っ赤にさせる。

「……? どうしたの?」

 なにかあったの? とでも言いたいような、そんな顔をして、自分の手を祈に向かって差し出している叶は言った。

「叶くんはさ、もう本当に、変なところで、度胸があるっていうか、鈍感っていうのかな? まあ、とにかくさっきから、たまに、そういう恥ずかしいことを平気で普通に私に言うよね」と祈は言った。

「……恥ずかしいこと?」

 叶は首をかしげる。

「まあ、叶くんの場合は、鈍感なだけかな?」祈は言う。

 それから二人は手をつないだ。

(二人とも、まだ手は泥だらけだったけど、あまり気にしなかった)

 相変わらず、祈の手はとても冷たかった。

「……やっぱり、あったかいね。叶くんの手はさ」

 と叶のことを見て、嬉しそうな顔で、祈は言った。

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