15

 崖のように険しく厳しい大地を越えると、地面は今度は緩やかな下り坂になった。「さっきのところが難所なんだ。あとはもうこの下り坂を進めば、森を抜けられるよ」と祈は言った。

 その森の終わりが近いことと関係しているのかわからないけど、周囲の風景はさっきよりもだいぶ明るくなった。

 太陽の日差しがところどころ、森の木々の間から差し込んでいるところがある。

 森の木々はその光に照らされて、随分と明るい色に輝いて見えた。木々の葉は、今もたくさん二人のいる周囲には、生い茂って入るけれど、でも、さっきまでいた森と比べるとだいぶ、その数が少なくなったような、あるいは、その印象が薄くなったような気がする。(深かった森がだいぶ浅くなった気がする)

 その証拠に、ここからはさっきまでは、あまりよく見えなかった空が見えた。

 夏の空。

 雲ひとつない、青色の空が見える。

 森の中に、気持ちのいい風が吹いている。

 その青色の空の色と、森の中に吹く夏の風の中で、空を見上げている叶の顔は自然と笑顔になった。

(叶は気がついていなかったけど、そんな叶のことを見て、祈は嬉しそうに小さく笑っていた)

 二人は、お互いに無言のまま、森の中を歩いていた。

 祈が叶の少し前の地面の上を歩いて、叶のことを道案内しながら、二人は縦に並んで森の中を歩いていた。

 すると、それからまた少しの変化が叶の見ている風景の中に訪れた。

 森の中に『小さな土色の道』があらわれたのだ。

 その道は、確かに森の中にあった。

 さっきまでの焦げ茶色の土ではなくて、もう少しさらさらとした印象を受ける黄色い土の色をした道。

 そんな小さな道が二人の前にはあった。

 その道の隣にある黄緑色の草むらには灰色の毛並みをした野うさぎがいた。(野生の野うさぎを見たのは、叶は今日が初めてのことだったので、すごくびっくりした)

 野うさぎはその灰色の耳をぴくぴくと動かしながら、じっと自分を見ている叶のことを見ていたのだけど、やがて、がさがさっと草むらの中を移動して、どこか森の中へと消えて行ってしまった。

 叶はそんな野うさぎのいる風景を見てから、ふと視線を感じて祈のほうを見ると、祈はそんな叶のことを見て、小さくにっこりと、太陽の日差しが差し込む黄色い土色の道の上で笑っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る