第11話

 村中が黒煙に包まれ見通しが利かない中、虎はまっすぐに通りを進んできた。

 ナタは震えながら銃を構え、虎めがけて発砲した。しばらく気を引いていれば、シューラが背後からSSを吹き飛ばすハズだ。

 虎は停車し、ナタの方を向いた。砲撃で土砂が噴き上がり、彼女の頭上の壁が吹き飛んだ。路端に吹き飛ばされた彼女は、目の前の虎を見上げた。

 虎の背後を見やると、そこにはシューラが近づいていた。あと少し、このまま気を引けばすべて終わる。

 ナタをじっと見下ろしていたSSは、不意に小首をかしげた。

 その頭上に、あの缶詰のような手榴弾が山なりに飛んできた。

 SSは振り向きもせず、拳でそれを払った。打ち返された手榴弾はシューラの腹にぶち当たった。声も上げぬうちに、その体は爆風をもろに受け粉々に砕け散った。ナタもまた爆風で地面に転がされた。

「嫌だ……もう嫌だ……」

 よろよろと立ち上がったナタは、無我夢中で走り出した。虎もまた、ゆっくりと後を追い始めた。

 息が切れ、視界は煙で霞む。もし止まったら――。

 必死に走る彼女の背後に、虎はピッタリと着いてくる。村の外に出て、3m程の崖を転げ落ち、それでもなお這いつくばって逃げた。

 後ずさる彼女の前で、虎が崖を降り始めた。

 しかし、虎が着地すると雪原は姿を変えた。分厚い氷と雪に覆われた湖は瞬く間に砕け、鋼鉄の虎を飲み込んだ。

 ナタが湖面を見つめていると、1枚の写真が浮かんできた。そこには穏やかな表情を浮かべたSSの車長と、その膝の上で笑う小柄な金髪の少女が写っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る