第7話

「虎です、2km程の地点で停車してます」

「では勝負だ、どう出る――」

 士官の言葉を待たず空を切る鋭い音がしたかと思うと、鐘楼が爆炎に包まれた。ちぎれ飛んだ兵士の断片と瓦礫が降り注ぎ、眼下の兵士たちを叩き潰した。

「何ということだ――退避!」

 突然の砲撃に、隠れていたT-34の乗員たちは面食らった。

 ハッチから身を乗り出した1号車、2号車の車長は顔を見合わせた。同時に砲弾が2号車のボディを貫き、爆発で砲塔が車長の上半身共々跳ね上がった。

 2km近い距離で居場所を見抜き、装甲を貫かれた!

 真っ青になった1号車の車長は、慌てて車内に引っ込みスコープを覗いた。

 急加速した敵は、一気にこちらへ迫ってくる。

 1号車は材木の山をぶち破って加速し、一気に距離を詰めた。1kmまで接近すると即座に停車し、別れの1発を叩き込んだ。

 そして容易く弾き返された現実を受け入れないうちに、敵の砲撃がボディに飛び込んできた。


 ナタは装甲車から顔を出し、火達磨になって打ち上がる砲塔を見て愕然とした。

「T-34が!」

「冗談だろ!こんな――」

 黒煙の彼方から飛んできた砲弾がホイールとエンジンの一部をえぐり取り、車体は激しく転倒した。

「爆破準備、全員通り沿いに待機したまえ」

 士官の命を受け、兵士たちは発煙筒で道を塞いで隠れ潜んだ。

 村に差し掛かった敵は減速し、ゆっくりと前進を続ける。

 民家の屋根に潜んでいる兵士は、眼下の戦車を見下ろした。車体後部、動力部を覆う鉄格子――エンジングリルの上には、ナチ党の鉤十字の旗が被せられていた。あそこに火炎瓶を投げつければ、燃料が燃えながらエンジンへこぼれ爆発を起こすだろう。これで駄目なら、装甲ごと爆破できる手榴弾もある。

 準備は万端、士官は爆薬の点火装置に手をかけた。

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