第5話

 ドイツ軍の進撃ルート上では、SSによって反抗的な住民が民兵として“掃討”されることがままあり、この湖畔の廃村も例外ではなかった。

 ナタたちが村に到着した時点で、点々と味方兵士の姿が見えた。

 この場で1人だけだという士官が近隣のはぐれ兵士をかき集め、ともに集積所へと向かうつもりだったという。

「諸君が見たという戦車は、おそらく虎戦車チーグルだろう。今年の夏に入ってから、各地で報告が上がっている」

「アレが追ってくる前に、集積所まで逃げましょう」

「バカを言ってはいかん、奴を燃料と弾薬の山に近づけることになる」

「戦車砲も跳ね返す化け物ですよ!」

「安心したまえ、我々は歩兵だけではないのだ」

 士官が村の教会を指し示すと、鐘楼に狙撃班らしき人影が見えた。

 そして彼が指笛を吹くと、納屋から金地金のような台形の戦車が2両姿を現した。

 雪煙をかき上げるそのボディは、くすんだ白に塗装されていた。

「T-34中戦車だ――主砲76mmは、1.5kmの距離でもドイツ戦車を撃破できる」

「ざっと俺たちの5倍の距離でか、へーこりゃ頼もしいね」

「作戦はこうだ――狙撃手が敵の車長を仕留める。そして、T-34が指揮官を失った戦車を撃ち抜く!諸君の装甲車は整備士が修理中だ、奴らが来たら囮として村へ誘い込んでもらう」

「だとよ――聞いてるか?車長さんよ」

「え、うん」

 右目にパンダのような痣を作ったナタは、心ここにあらずといった様子で俯いていた。

 士官はハッハッと笑い、彼女の肩を叩いた。

「安心したまえ、奴らは1発も撃ってこなかったのだろう?つまり弾切れか、諸君が轢いたのが砲手だったんだろう」

「だといいがね」

「万一仕留め損ねても30人の歩兵がいる。今、通りに爆薬を埋めさせている。ヤツを誘導して爆破する」

 士官は缶詰に柄の刺さったような緑色の物体を手にした。

「この対戦車手榴弾RPG-40で履帯と装甲を叩き割り、歩兵が火炎瓶でエンジンに放火、ガソリンの誘爆を狙う。そこへT-34が追撃をかける――この村が奴の墓標となるのだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る