第3話

 林の奥で、狂ったコンパスと地図を手に頭を抱える黒服の3人組の姿があった。このSSたちは吹雪の影響で原隊とはぐれ、挙げ句に無線まで故障してしまっていた。砲手が戻らないので、しびれを切らした車長は彼女を探しに出ていた。


 単調な景色に、砲手の帰りが遅いのも合点がいった。気まぐれな“お姫様”は、今頃泣いているかも知れない。

 いつも思いつくままに動き回り、痛い目を見ては自分に泣きついてくる。そんな小さなワガママ娘が、彼女にはたまらなく愛おしかった。ただ、今回ばかりは少々お灸を据える必要がありそうだった。そう思っていた矢先、視線の端に横たわる影を見つけた。

 駆け寄ってみて、血溜まりに気づいた彼女は凍りついた。

 そこにいたのは間違いなく、彼女の車両の砲手だった。雪のように白い肌が裂け、体には一直線にタイヤ痕が残る。

 体の損傷だけではない、喉に何か詰まっている。

 崩れて歪んだ体を抱き起こすと、がくりと首が垂れ下がる。みぞおちの辺りを手で押すと、げっぷとともに口から肉塊がこぼれ出た。明らかに故意に詰められたものだった――後はひとつ、何者の仕業か。タイヤ痕を目で追うと、林を抜け雪原へと続いていた。

 革手袋のこぶしが、ギリギリと音を立てた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る