Nobody knows

 自宅の塀から瓦造りの庇を経て、こっそり二階の自室へ。スマートフォンの画面の時刻はとうに午前四時を回っていた。

 このままベッドにダイブしたら最後、寝坊するのが目に見えている。なので、眠気覚ましのシャワーを浴びる事にした。

 シャワーヘッドから勢いよく流れ出る熱めのお湯に打たれながら、これからの事を考える。

 まずは今後続々と現れるであろう転移門、そこから現れてくる魔物との闘いに備えて。


「今の転移門の小ささなら、すぐに中型や大型の魔物が現れる心配とかはなさそうだけど」


 現実なんて常に想定外の連続である以上、出来得る限りの備えはしておきたい。

 だから日々のスキマ時間などは、可能な限り特訓に充てていきたいのだけど。


「部活動や勉強だって、きちんと両立していかないとだしなぁ」


 そう、学園生活だって手を抜くわけにはいかない。

 別に手抜きそれ自体は問題じゃない。何なら疎かになった結果、周りの生徒や先生から不真面目や不出来といった烙印を押され、避けられる程度ならそれで構わない。

 僕が最も懸念しているのは、その先――つまり、周りの誰かが僕にお節介を焼いたりしないかという事だ。


「崎森さんや帯刀くん辺り、本当に優しいからねぇ」


 救いの手を差し伸べようと僕に近付けば近付く程、それだけ異世界での償いを続けている僕の裏の顔がバレるリスクも必然と高まってしまう。


「……これ以上、みんなを巻き込みたくはないんだ……」


 だから程々に学園生活も頑張って、程々に周囲の人々との距離を保たなければいけない。

 クラスメイト然り生徒や先生然り、両親や妹然り、この街の人々然り。


「業を背負うのは、僕だけで十分……」


 勢いある噴出音を伴ったシャワーの熱水が、情けないくらいに華奢な肌色の裸体をつたい床へと流れ落ちる。

 視線を落とすと、汚れだけ落とした流水によって、排水口で渦を巻き続けていた。

 終わることなく、延々と。まるで何かの呪いのように。


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