第28話 猫好きな猫又と獣人

「獣人というのは、そうだな…………人のように2本の足で歩く獣、のような感じか」


 くぼみの近くにまた座り込み、お兄さんからの講義を聞く。


「元は俺達と同じ人間だったらしいが、彼らがあがめていた神の加護を受けたことにより、神の眷属けんぞくたる獣たちに近付いた──というのが、獣人の国である〈ベスティアルゴ〉がとなえている獣人の成り立ちだな」

みゃ〜へ〜


 もふもふ好きな人たちからは熱狂ねっきょうされそうな神様がいるんだなぁ。

 私は特に神様とか祈るタイプじゃないけど、そんな神様なら崇めてもいい。まぁ、私はもうもふもふなんですけども。

 にゃんにゃんふむふむ頷く私に、お兄さんが微かに口元をゆるめながら続ける。


「見た目は結構、元となっている獣によって違うから一概いちがいには言えんが、肌は毛皮でおおわれ、獣と同じように耳や尻尾、牙がある。翼があるやつらもいるな」

にゃうあつばさ!」


 つまりお空が飛べる人がいるんですね! 魔法とかじゃなくて翼で!

 バッサバッサと翼で飛ぶ自分を想像してみる。子猫に翼……天使か??? おっとまるで自画自賛みたいになってしまうからここまでで。


「獣人の中でも特異な者は、『獣化』でより獣に近い姿に変われる者もいるらしいが……それも、日頃から使うものではなく、戦闘など特殊な状況下で使用する能力のようだ」


 そこまで説明したお兄さんが、言葉を区切ると少しだけ眉根を寄せた。


「それに対して、さっき現れた奴は……獣の耳を持ってはいたが、至って人間と変わらない肌のように見えた」

にゃ


 そういえば、確かに私が違和感を感じたのは頭の上で揺れる犬っぽい耳だけだった。

 夜目の利く私から見ても、あの女の子は普通の人間の肌に見えた。

 首を傾げる私の前で、お兄さんは考え込むように微かにうつむきながら口を開く。


「……一応、そういう獣人がいないわけではないんだが」

にゃーんなーんだ


 それなら、その獣人の方たちなのでは? と単純に考える私と違って、どうもお兄さんは悩まし気だ。


「正確にいうと、獣人ではないんだ。ルフスは聖獣や魔獣の存在を覚えているか?」

にゃんはい


 私が魔獣それじゃないのか、って魔物研究をしているレヴァさんとお兄さんが言っていたやつですね。

 確か……魔力を宿した獣で、人と言葉をわすことができる存在だったよね。魔物とは違うっていう。

 私は魔物にしては賢いけどしゃべれないから違う、という判定になった。まぁ中身が人間なので、そういう意味ではただの魔物ではない。

 あと、魔獣の反対で聖獣もいて、レヴァさんが昔に白い獅子の聖獣を見たことがあるって言ってたっけ。教会批判も交えながら……。


「その聖獣や魔獣には、人の姿になれる『獣人化』という能力があるらしい。その能力を使うと、さっきの奴のように身体の一部だけに獣の特徴が残る」


 …………んん? それってつまり……さっきの女の子が聖獣か魔獣だったかもしれないってこと⁉

 確か、どちらもめちゃくちゃ珍しいって話だったような。

 私が驚きで目を大きくすると、お兄さんは小さく頷いた。


「ルフスが驚いているように、聖獣や魔獣というのは凄く希少な存在だ。それこそ、10年近く冒険者をしている俺もまだ一度も遭遇したことがない。レヴァも以前聞いた白い獅子の聖獣くらいのものだ」


 お兄さん、10年近くも冒険者してたのか。

 別のところに驚きつつ、何となく謎の女の子の魔力が微かに残る窪みを眺めてみる。

 そんなに貴重な出会いだったんなら、少しくらいお話しとかしてみたかったかも。

 特にその『獣人化』とかいう能力について。頑張れば私にも使えたりしないだろうか……。

 私の興味がれ始めた頃、お兄さんが私の耳の間を指先で撫でた。ふみゃお。


「お前も疑問に思ったか。確かに、あの少女が聖獣か魔獣だったとして、あまりに気配がだった。俺は実際にったことはないが、話には何度か聞いたことがある。それによると、明らかに普通の生き物とは違う気配を感じるらしい。ドラゴン相手の威圧感とは違って……レヴァいわく、『聖獣を教会が神聖視するのも分からなくはない』だそうだ」


 …………ど、どうしよう。全然疑問に感じてなかった。わたしに猫耳装備って似合うかな、とか想像してた。

 ま、まぁ、今の私の猫面ならお澄まし顔しとけばバレないよね!

 ダイジョウブ! 私は真面目に考えてましたヨ!!


「……ルフス、実は違うことを考えていただろ」

ふみゃふぇ⁉」


 どどどどどどうしてバレた‼⁉

 あからさまに動揺しているのがばっちり伝わったのか、振り返った先のお兄さんはとても呆れた顔をしてらっしゃった。


「俺が話している時から尻尾が異様に直立していたし、耳も震えてたぞ」


 あぁ……猫には感情を表現する方法がいっぱいあるのです。

 誤魔化し笑いをする私の頭を指でグリグリされた。


「とにかく、ここには誰か不当に侵入していることが分かった。明日の朝にはここを発ってカルパタに戻るぞ」

にゃんはい!」


 翌朝、まだ朝日が顔を出して間もない時間に坑道を出た私とお兄さんは、村長宅に挨拶をしてカルパタへと向かった。

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猫又(わたし)は新種モンスター 猫又 ロイ @Royalty

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