第27話 猫好きな猫又と警戒

 どうも。スープを美味しくいただき満腹によって眠気に襲われている私です。


「にゅぅ……」


 子猫このの身体は、何というかすごく弱い。

 子猫なんだから当たり前だろというのも分かる。でも、私って一応魔物のはずなんだけどな……。

 眠気にあらがっている私を、ディオさんがちょっと微笑ましげにしているのが、なんか悔しい。


「寝ててもいいぞ。何かあれば起こしてやる」

うにゅぅでも……」


 野営初挑戦の私でも、さすがに満腹によって寝落ちっていうのはどうかと思うのです。

 特にディオさんの方は徹夜する気満々なところとか。

 まぁ、私が起きててもお兄さんが寝ることはないのだろうけど、それはそれとして、私も起きられるなら起きているべきだと思うわけで……。

 そう思って何とか眠気をさまそうと首を振るも、お兄さんが私の頭から優しく撫で始めた。

 やめて寝かしつけようとしないで……むしろ耳とか尻尾とか引っ張って起こしてほしい…………。

 こうなったら意地でも起きてやる……っ!

 おきて、やる……のだぁ……。


「おやすみ、ルフス」

「ふみぅ」


 すぴー。




「──ルフス」

ぴっはっ


 軽く揺れる身体と、冷静なお兄さんの声で覚醒かくせいした。

 ね、ねねね寝てないよ⁉︎

 いえ、ウソです。ばっちり寝てました。なんだったら飼い猫ハルくんの夢を見てたことも覚えてます。

 慌てて動こうとして、お兄さんにかかえられているのが分かった。

 しかも場所は野営していた場所ではなく、広間が見える坑道の1つだ。

 黙ったままお兄さんの顔を見上げると、私の意識がちゃんと覚醒かくせいするのを待っていたらしいお兄さんが、小さく頷いて指を差した。

 そこは、一見して何かあるようには見えなかったけど、日中に確認しに来た時にした「ドラゴン以外の魔力」の話を思い出して、魔力を感じ取ろうと集中する。

 すると、うっすらと私でもお兄さんでもない魔力が、ドラゴンがいたくぼみの近くでただよっているのが分かった。

 いや、漂っているというより……何だろう。にじみ出ているような、じわりじわりと濃くなっていっている感じ。

 でも、その魔力を発している相手は見当たらない。

 お兄さんは野営道具もきっちり片付けていたようで、窪みの周囲は灯りもなく薄暗い。が、夜目の効く私の眼にも何もうつらないのだ。


「……何か見えるか?」


 顔の近くまで私を持ち上げたお兄さんがささやくように聞いてくる。

 それに黙って首を横に振ると、お兄さんは眉をひそめたまま窪みをジッと眺めた。

 その間にも段々と漂う魔力が濃くなっている。

 1人と1匹で息を殺して監視していると──、


「────」


 ただ漂うだけだった魔力が突然集まり出したかと思えば、またたきほどの時間で人が現れた。

 一瞬、もしや幽霊みたいな存在でも発生したのかとビビったけど、私の耳にちゃんと呼吸音が届いて安心した。

 少なくとも息をする生き物らしい…………んん??

 どうやら現れたのは女の子らしく、窪みのそばにしゃがみ込んで何か作業を始めた。

 そんな女の子、多分、わたしと同じくらいの年頃に見える。

 ただ何か違和感があるような……。

 それが何かよく分からないので、お兄さんを見上げると、すごく驚いた様子で女の子を見ている。

 突然現れたことに驚いているのか、私が感じた違和感に驚いているのか。

 さすがに今声を出すのははばかれるので、大人しく私も観察に戻ることにする。

 どうやら女の子は魔法で地面をけずり取っているらしく、削った地面に顔を近付けると何故か鼻を動かして匂いをいでいた。

 そして首をかしげたり頷いたりしながら、腰にくくり付けていた袋に入れていく。

 魔力から女の子が現れてから10分程、納得いくまで集められたのか立ち上がった。

 うむむ……まだ違和感が分からない…………。

 真っ白な髪ではないし……左だけ見える蒼い瞳でもない。日本ならともかく、こっちの世界ではそう珍しくない。

 服装だって冒険者ならおかしくない動きやすそうなものだし……お腹が丸見えだけど、恥ずかしさなんてなさそうな腹筋です。

 あとは、くらいのものだけど、それは私にもあるしな。

 そういえば、こっちの世界にも獣人っているんだったなぁ。すごいファンタジーだ。

 あれ? でも、これまでそれっぽい人は見たことなかったような……。

 あ、そっか。それに違和感を感じていたんだ。

 こう……日本の街中で和服の人を見たみたいな。居てもおかしくないんだけど、見慣れてないから気になっちゃう感じで。

 確か、人間以外に獣人と亜人、あと魔族がいるって話だったっけ。

 私には既に獣人と亜人の違いが分からないんだけど。動物っぽいかどうか、とかかな?

 頭の上で揺れる耳を眺めているとついなごみそうになる私。あれは何の動物なんだろう。犬っぽいな。

 その時、また魔力が漂い出した。

 そういえば、あの女の子から感じる魔力と漂う魔力は違うものだ。

 ということは、あの魔力は移動に使っている……? この世界って転移魔法とかもあるのか。すごい。

 女の子が現れた時と同じく漂っていた魔力が一点に集中すると、女の子はまた一瞬で姿を消した。

 見えなくなっても暫くの間、坑道にひそんでいた私達も、お兄さんの深く息を吐くのをきっかけに動き出した。


「ふぅ……今度はバレずに済んだか」

にーあー


 前はドラゴン相手にこっそりして、思いっきりバレてましたもんね。

 お兄さんの腕から飛び降りて窪みに近付くと、お兄さんもカンテラに火をともしながら追ってきた。

 クンクン匂いを嗅ぐと、微かに私とお兄さん以外の匂いを捉えた。あと魔力も。

 しかし不思議なことに、さっきまで漂っていた魔力はもう欠片も感じない。

 魔法を使うと、魔法の効果が消えた後でも魔力がちょっと残っていたりするのは、これまでの冒険で学んでいる。私も魔法使えるようになったし。ドヤァ。

 あ。でも、窪みに残っていた魔力はさっきほ女の子のものだったのは分かった。

 あの女の子は何をしてたんだろう。地面を削ってたけど、私にはただの地面にしか感じない。

 首を傾げながら窪みの周りをトコトコ歩き回っていると、お兄さんが難しい顔で考え込んでいるのが見えた。


にゃーうお兄さん?」

「…………あれは、本当に獣人なのか……?」

?」


 頭の上に動物っぽい耳があるなんて、私が想像する獣人そのものって感じだけどなぁ。

 私が首を傾げているのに気付いたディオさんが、小さく頷いた。


「そういえば、ルフスはまだ獣人には会ったことがなかったな」

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