第26話 猫好きな猫又と野営
「いえ、あれからあの坑道へと入った者はいないかと…………その、あそこで身内を亡くした者も少なくなく、入りたがる者がまず少ないのが現状ですね」
村へと戻ってからニードさんに話を聞くと、そう答えが返ってきた。
どことなく気まずそうな顔をしているニードさんに私は首を傾げていたけど、お兄さんは特に気にした様子もなく言った。
「魔物を片付けたのは、そういう依頼だったからだ。その後の採掘の方針にまで口を挟むことはない」
「そうですか……」
ほっとしたように息をついたニードさんに私も納得した。
なるほど。せっかく魔物を倒して安全になったのに、違う坑道を使っているのが失礼なんじゃないかって思ってたのか。
まぁ、人によっては文句を言うこともあるかもだけど……少なくとも、前回の討伐で一緒になった冒険者の中には、そういった人はいなそう。
「近々、国から改めて視察が来られるそうで。別の鉱山から人を回して頂けるか決まることになっています。あの坑道は、それまでは見回りのみにしようかと」
「そうか……その見回りで、何か見たり聞いたりしたという話もないんだな?」
「はい、これといった話は……」
お役に立てず、と申し訳なさそうなニードさんに気にしないよう告げて、村長宅をあとにした。
空を見上げると、太陽は天辺よりも地平に近い角度まで傾いている。お兄さんのスピードなら、今からでも暗くなるまでにはカルパタの街まで戻れそうだけど。
お兄さんの肩に乗ったまま顔を見上げると、顎に指を添えて考え事をしていた目がこちらを向いた。
「念の為、今日は坑道に野営する」
「
野営かぁ。何度か依頼を受けて外に出たけど、屋外に泊まるのは初めてだ。前回、村に来た時もアレナちゃんの家に泊まったし。
お仕事とはいえ、ちょっとワクワクしてしまう。
それが伝わってしまったのか、お兄さんに仕方なさそうな苦笑を向けられた。
「普通は面倒に思うものだが、嬉しそうだな」
「
今回は魔物の姿の見えない坑道内だが、完全に外での野営となると常に襲撃を警戒しないといけないので嫌がられるそう。
複数人いれば交代で見張りながら睡眠をとって、1人なら徹夜することも珍しくないとか。それは確かにキツイかも……。
一応、魔物避けとなる匂い袋や魔道具を使ったりもするけど、それも絶対に大丈夫とはならない。
因みに、それを使われると私も近寄れなくなってしまう。私も魔物なんだなぁ、と改めて思う瞬間です。なんか凄く臭いというか……。
お兄さんは元々魔物避けは使わず、風の魔法で周囲を
「それでも普通は危険は避けるもので、出来る限り野営をせずに済むよう行動するのが冒険者の基本だ」
「
何となくキャンプのようなイメージを持ってたけど、魔物なんて危険生物がいる世界は楽じゃないんだなぁ。
そんな危険生物になった私の頭を撫でながら、お兄さんは再び坑道へと向かった。
陽が落ちるまで、他の坑道にも入ってみたり、クリスタルドラゴンが突き破った鉱山の一角を見に行ったりした。
ドラゴンが開けた穴からは見事に空が覗いていて、今後、雨風で
ただ穴を
そして、今はドラゴンがいた広間のような場所で野営の準備中です。
とはいっても、私は野営なんてしたことないうえに子猫なので、準備していたお兄さんを眺めていただけだが。
坑道では煙が出ると充満して大変なことになるので、油の入ったカンテラが壁に一定間隔に設置されている。
前回は魔物が溢れていたせいで油を補充することも出来ず、かつ潜入だったので光源を用意するわけにもいかず、暗闇のまま歩いていた。
お兄さんは風魔法で周囲を探知しながら問題なく歩いていたし、私は魔物なので夜目が利くし、特に必要もなかったのです。
でも、今は油も補充されて、見回り中に火を灯し続けているので結構明るい。
それでも一応、お兄さんも手に魔道具を持っていた。見た目はただのカンテラだけど、何故か火を入れると燃料もなく1日は燃え続けるらしい。
お兄さんは不思議なカンテラをドラゴンがいた
「
「うん? あぁ、これは焚火の代わりだ。この板に書かれている円があるだろう、その上に物を置くと温められるようになっている」
IHだ! 異世界の魔道具が凄く身近に感じました。どこの世界でも考え付くことは同じなんだなぁ。これからIH板って呼ぼ。
それを地面の平な所に置いて、村で借りてきた鍋を置く。そして魔法を使おうとしたらしいお兄さんが、何故か途中で止めて私を振り返った。
「いつもは氷を出して溶かしていたが、今はお前がいるからな」
そう言って笑ったお兄さんに促され、嬉々として鍋に水魔法を放ちました。相変わらず私の水魔法のイメージは蛇口です。
鍋の半分ほどまで水を入れて、お兄さんがIH板に触れて少しだけ魔力を流した。すると、確かに板から熱が発せられているのが分かる。
その中に、ニードさんからの差し入れとした貰った野菜やお肉を入れていった。
短いナイフでクルクルと野菜の皮を剝いていくお兄さんに感心しつつ、料理をする姿を眺める。意外と似合う、というのは失礼かな。
私にはよく分からないスパイスのような物や調味料を入れて完成した具沢山スープと、差し入れのパンを出してご飯タイムです。
スープはコンソメに似た、でも少しだけピリッとした辛みがある味で、具も子猫が食べやすいように小さく切られていて美味しかった。
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