第25話 猫好きな猫又とドラゴンの謎

 フンフン匂いを嗅ぎ、気配を探り、周囲をつぶさに観察する。

 そうやって私的にはとても真面目に調査しているのだが、どうもお兄さんからの微笑まし気な視線が止まない。


「にゅぅ……」

「そう怒るな。馬鹿にしているわけではない」


 分かってるんだよ? 子猫が真剣な顔(注・猫面)で辺りを探っているのは、傍から見てると可愛らしいのだろう。

 でもね、私はそれを見ることができないんだ。何故なら、その可愛いものが私だから……っ。なんか凄い自画自賛している人みたいになっちゃったな……。

 違うんだよ。私が語りたいのは私の可愛さじゃない、子猫の可愛さなんだ。

 そうやってお兄さんに絡みつつも、お互いにちゃんと辺りを警戒している。これは最近の討伐依頼をこなしてきたから分かった。

 最初はお兄さんがただ歩いているだけのように感じていた時も、本当は細かく視線を動かして怪しい場所がないかチェックしていた。

 たまにお兄さんから魔力が動く気配がするのは、風の魔法で周辺を探知しているから。

 探索中は私を抱えることは基本しない、しても片手は必ず空けておく。足音は抑えて、私の後ろを歩く。

 それを自然と行えるお兄さんは確かに「凄腕の冒険者」なんだと思った。

 そんなお兄さんの相棒というからには、私も頑張らないといけないのだ!


「ルフス、魔力が高ぶっているぞ。少し抑えろ」

「にゃう」


 が、頑張らないといけないのだっ(小声)。

 お兄さんに度々指導されつつ、特に何の気配もない坑道を進む。

 それにしても、本当に何もいないなぁ。いくら前回の討伐でたくさんのリザードを倒したとはいえ、数体くらい残っていても良さそうなのに。

 スンスン鼻先を動かして匂いを辿るも、どれも最近のものではない。魔力の気配も薄く、生き物の気配もない。

 これは……どうなんだろう。安全、ということなのかな?

 何もないならそれに越したことはないって話だったけど、本当に何にもないだもん。ちょっと拍子抜けといいますか……。

 暫く進むと、あのクリスタルドラゴンと遭遇した空洞くうどうに出た。

 もちろん、もうあのドラゴンはここにはいないが、あの時の金色の瞳にとらえられた感覚が思い起こされて少し毛が逆立さかだった。

 いやぁ、我ながらあの時は随分と無茶をしたなぁ。この子猫体格でドラゴンの巨体と鬼ごっこだもん。

 魔力が操れるようになったことで、こう、ハイになってたね。やらなきゃられるって状況ではあったけども。

 ドラゴンが横たわっていた場所は地面がまるでえぐり取られたかのように陥没かんぼつしていた。デカいし重いもんね……ただ立ち上がるだけで陥没しても仕方ない。

 私はそう思っていたんだけど、どうやらお兄さんは違ったようで。


「これは……」


 そう呟くと深刻そうな顔で黙ってしまった。

 へこんだ地面の側で片膝をつくと、目を凝らすようにして何かを探している。


にゃーうお兄さん?」

「…………ない」

にゃいない?」

「前回、最後にここを訪れた時に竜血のほとんどは回収した。だが、地面にこびり付くようにして結晶化したものは放置していたんだ。アレ程度であれば時間が経てば自然の魔力にかえっていくからと」


 竜血って確か、ドラゴンの魔力が結晶化したもの、だよね? お兄さんと一緒に潜入した時に回収したやつ。

 そういえば……ドラゴン本体に気を取られ過ぎてあんまり細部は覚えていないけど、確かにドラゴンの身体の周りもやたらキラキラしていたような……。それが地面と一体化しちゃった竜血ということ?


「竜血が付いていた地面が、後から抉り取られたようだ」


 お兄さんが撫でるように地面に触れる。なるほど、ドラゴンの体重で陥没しただけじゃなかったのか。

 でも、そうなると誰かがここまで来たってことだよね?

 普通に考えれば村の人たちだろうけど…………村代表のニードさんの話じゃ、今はこことは別の坑道で採掘をしているらしい。


「ここはちゃんとした国が登録をしている鉱山だ。その管理を任されている村長ニードから許可を貰わずに採掘するのは違法行為…………もちろん、村の誰かがこっそり採掘した可能性もあるが……」


 ふむ、と顎に手をやるお兄さんが、チラリと私を見る。


「気付いていないか。地面にドラゴン以外の魔力を感じる」

にゃっ?」


 慌てて私も陥没した地面に寄ると、確かに薄っすらとだけど魔力を感じた。


「魔力が残っているということは、この地面は魔法によって抉り取られたんだろう。それも、ごく最近」

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