第24話 猫好きになった男と小さな戸惑い
その日もルフスの訓練に良さそうな依頼を
見ると、どうも言いづらそうな顔をしている。
また面倒な依頼でも持ってきたのかと少し身構えたが、実際は違った。
「オンラルク鉱山の様子を確認してきて欲しいんだが、良いか?」
「にゃうにゃん!」
オンラルク鉱山といえば、クリスタルリザードの大発生からクリスタルドラゴンの討伐にまで発展してしまった依頼があった場所だ。ルフスの尻尾が2本に増えた場所でもある。
その
それを思い出しているのか、床に降ろしていたルフスが声を上げて跳ねている。
「随分と嬉しそうだな、ちびちゃんは」
「ルフスだ……あの村にいる子供を気に入っていてな」
「なるほどな」
確か……アレナ、という名前だったか。父を魔物に襲われて亡くしてしまった為に、魔物だと気付いてからルフスのことも避けていたようだが……。
別れ際には吹っ切れていたようにも見えた。ルフスも喜んでいるようだし、問題ないだろう。
「じゃあ、受けて貰えるってことで良いのか?」
「あぁ。ルフスの気分転換にも良いだろう」
「お前、最近ちびちゃん基準で依頼選んでないか……?」
そんなことはない。
ただルフスが喜ぶのならそれに越したことはないだけだ。
クリスタルドラゴン討伐から、そろそろひと月程になるか。
経過観察としては少し遅いくらいかもしれないが、ギルマスの様子から考えて特に問題は起こってはいないのだろう。
何もなければただの無駄足にもなるので、ギルマスが申し訳なさげに依頼を持ってきたのも頷ける。もちろん、何もなくとも依頼達成で報酬は出るが、俺が普段受けている依頼に比べれば微々たるものだ。
だが――。
「にゅぅにゅ……み…………くるる」
鞄の中から頭を出し、楽し気に喉を鳴らしているルフス。2本の尻尾も、ユラユラと機嫌良く揺れている。
ルフスがこれだけ嬉しそうにするのなら、受けるだけの価値はあるだろう。
あの【
それでもルフスがやる気を出していることに、水を差すような言葉をかけるつもりもない。あのアーティファクトは警戒したままではあるだろうが、ルフスはまた密売組織の依頼に協力すると決心したのだ。
保護者として、それを
俺の心配は、俺自身が気を付けていれば良い。
ここ数日のルフスは、そのことを気にかけて焦っているような気がする。
今回の依頼はルフスの気を緩めるのに調度いいものになるだろう。
昼を幾分か過ぎた頃、オンラルク鉱山麓の村に着いた。
代表のニードは居るだろうかと思っていると、近くにいた村人が笑みを浮かべて近寄って来た。
「以前、お世話になった冒険者の方ですね! その節は本当にありがとうございました」
「すでに報酬も受け取っている。そう
「いえいえ! それだけのことをしていただきましたから!」
裏のない笑顔に少し困る。
すでに報酬も貰っている依頼について改めて礼を言われるというのは、どうも居心地が悪く感じてしまう。
以前、そういった話をした冒険者仲間には「気にしすぎだ」と呆れられたこともあるが、これは性分なのだ。
普通に接してくれれば何よりなのだが……前回の討伐のような案件の後、依頼主がそうそう態度を変えてくれないのは経験として知っている。
ただ居心地が悪く感じてしまうだけで、相手が失礼なことをしているというわけではないのだ。さすがに、それで機嫌を悪くするほど子供でも素人でもない。
ただ……俺以外も連れてくれば良かったかと思いはした。メイダルダンとか。
目の前の村人の声を聞いてか、他の者たちも集まってきた。口々に礼を言われるだけでなく、泣きながら手を取られたりだとか、最近採掘したのであろう鉱石の入った袋を渡されそうになったりだとか、とても気を遣う。
報酬はすでに貰っているからと鉱石を断ると、さらに感極まったかのような反応をされてしまった。当然のことを言っただけだと思うのだが……。
とりあえずルフスを抱えて気を
「ねこちゃーん!!」
「にゃうにゃん!!」
村の奥から駆けて来た見覚えのある少女に、鞄から抜け出したルフスが飛び付いていた。
嬉しそうに抱き合う2人を見るに、少女のルフスへの
それを良かったと思う反面――。
「何も今じゃなくても…………」
「? 何か言いましたか、オルディオ様」
「……いや、何でもない。”様”はやめてくれ」
「いえいえ、これも私達の感謝の気持ちですので」
「だから、そこまで畏まる必要は……」
このまま日が暮れそうだ……。
あとルフス。今、目を逸らしたの気付いているからな?
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