第23話 猫好きな猫又と小さな再会

 密売組織を追う決心をつけてから、3日後。

 特に目立った進展もなく、ミアの森で細々とした依頼で鍛錬させてもらっていた私に、嬉しい話が来た。


「オンラルク鉱山の様子を確認してきて欲しいんだが、良いか?」

にゃうにゃんアレナちゃん!」


 若干、申し訳なさそうに話を持ってきていたギルマスさんが、大喜びする私を見て不思議そうに首を傾げていた。

 その原因に心当たりがついているのか、お兄さんは苦笑気味。


「随分と嬉しそうだな、ちびちゃんは」

「ルフスだ……あの村にいる子供を気に入っていてな」

「なるほどな」


 そうです。オンラルク鉱山といえば、クリスタルドラゴンを討伐した場所で、その麓にある村にはアレナちゃんがいるのです!

 お父さんを魔物に殺されてしまった女の子で、最初は私をただの猫だと思って接していたけど、実は魔物だったと気付いた時には凄く避けられたりした。

 だけど、お別れの時はちゃんとバイバイしてくれたし、もう大丈夫だと思うんだ!

 アレナちゃんは私の小さなお友達なのです。まぁ、私の方が小さいんですけど。


「じゃあ、受けて貰えるってことで良いのか?」

「あぁ。ルフスの気分転換にも良いだろう」

「お前、最近ちびちゃん基準で依頼選んでないか……?」


 ギルマスさんが凄い呆れた顔をしているけど、お兄さんの優しさは初期設定なのです。




 依頼を受けたその日のうちにカルパタを出たお兄さんと、いつも通り鞄から頭だけ出すスタイルの私が麓の村に着いたのは、お昼を大分過ぎた頃合いだった。

 夕暮れまでは、まだ暫く時間がある。村の人たちも、何人か外を出歩いていた。

 村に近付く人影に気付いた村人さんが、お兄さんの顔を見て嬉しそうに顔を綻ばせる。


「以前、お世話になった冒険者の方ですね! その節は本当にありがとうございました」

「すでに報酬も受け取っている。そう畏まる必要はない」

「いえいえ! それだけのことをしていただきましたから!」


 凄い笑顔で話しかけてくる村人さんに、お兄さんが少し困り気味だった。

 私的にも、お兄さん達がやったことってとても凄いことだと思っているので、村人さんの反応も納得。報酬を渡したから終わりって事件じゃなかったもんね。

 村人さんの声が大きかったからか、他の村人さん達も集まってきた。その全員が笑顔で歓迎してくれる。

 感謝の嵐に少しタジっているお兄さんを面白く思っていると、村の奥から髪を二つ結びにした小さな人影が走ってきているのに気付いた。


「ねこちゃーん!!」

にゃうにゃんアレナちゃん!!」


 ブンブン手を振りながら駆け寄ってくるアレナちゃんは、耀くばかりの笑顔だった。

 ピョンと鞄から飛び出し、アレナちゃんへと真っすぐに駆ける。そして両腕を広げたところに軽やかに飛び付いた。

 ぎゅうぅ、と少しだけ強めに抱き締められたけど、今回は許そう。


「ねこちゃん! ねこちゃんだぁ!」

にゃーうはーい!」


 ウリウリと頬擦りしてくるアレナちゃんに負けじとウリウリし返す。どうやら本当に私を怖いとは思わなくなったみたい。

 ……じ、実はちょっとだけ不安だったりしました。はい。

 暫くお互いのほっぺたを合わせたりして引っ付き合っていると、アレナちゃんの後ろの方から見覚えのある女性が慌てて駆け寄って来た。


「あ、おかあさんっ。ねこちゃんだよ!」

「やっぱりオルディオさんと……確か、ルフスちゃんね。私のこと覚えているかしら」

にゃーおもちろん!」


 アレナちゃんのお母さん。私を魔物だと始めから知っていたうえで、優しくしてくれた人です。

 旦那さんが魔物に襲われて、それからアレナちゃんを1人で育てて大変だろうに、ずっとニコニコしていた。

 アレナちゃんも元気みたいだし、大きな問題はなさそう。良かった良かった。

 それから村の代表であるニードさんが出てくるまで、私はアレナちゃんたちに、お兄さんは他の村人さんたちに歓迎されていた。

 ちなみにお兄さんが途中で目が合った時に、凄いジト目をしていた気がするけど……気のせいだよね!


「ルフス……」

「にゃふぅ」


 ほっぺた引っ張られました。




 ニードさん宅で荷物を下ろして、まずは近況を聞いた。

 リザード大発生の件で村の男手が減ってしまった為、発掘作業そのものはなかなか進んでいないが、魔物の被害は今のところ出ていないそう。


「前回の討伐で、ほとんどのリザードが討伐されただろうからな。それこそ、またドラゴンが住み着いたりしない限り、暫くは出ることはないだろう」


 とのこと。確かに、凄い数のリザードがいたもんなぁ。

 ただし、リザードがいなくなったことで別の魔物が住み着く可能性は大いにあるので、そこは注意が必要。

 今回はそういった兆候がないか、確認するのが私達のお仕事です。

 そう! つまりは私のこの猫ちゃんお鼻が活躍するのでは⁉ めちゃめちゃクンクンしますよ!

 おっとよだれが。


「ルフス……」

「ふんふんっ」


 だ、大丈夫ですから! そんな残念そうな目で見ないでください!

 つい「魔物見つけたら食べても良いかな?」とか思っちゃっただけですから!

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