第22話 猫好きな猫又と報告

 セルナさん宅にお迎えに来てくれたお兄さん。

 お土産、といって渡してくるのは相変わらずミルクです。しかし、私はこのミルクが大好物なので何も問題はない。

 セルナさんは苦笑しているけど、美味しいは正義なのだ。

 お兄さんは夕ご飯がまだだということで、セルナさんが大量に作った料理を食べ始めた。

 やっぱり私は1人前も食べられず、セルナさんも2、3品で満足していたので、ほぼほぼ残っていたのだが、黙々と食べ続けるお兄さんは苦にもせず消化していく。

 約2・5人前はあったであろう料理をペロリと平らげたお兄さんが、紅茶で一息ついたところで私に振り返った。

 ちなみに私は現在、フカフカソファに座るセルナさんのフワフワ太ももの上。


「もう大丈夫そうか」

にゃんはい!」


 元気よく頷いてみせると、ほっと小さく息をついた。ご心配をおかけしましたよ。

 本当は私も冒険者ギルドまで、捕まえた人を連行したほうが良かったんだろうけど……どうしてもあの首輪には近付きたくなかったんですぅ。

 そう言い訳が出るも、反省はしています。


「あのあと、ギルマスとリオンに男を引き渡して、尋問もしてきた。あの首輪の正体も分かった」


 お兄さんが淡々とフードの男から聞いた話を教えてくれる。

 【鹵獲ろかくの首輪】というのが、あの嫌な気配バンバンな首輪の正体で、昔、他人ひとの魔物を奪う為に使われていたそう。

 今は軍以外では規制されているらしくて、保持しているだけで犯罪だとか。そもそも総数も少ないので持っている人も珍しいらしい。


「そんな物を、恐らく下っ端であろうあの男が持っていたことから、密売組織は多数の首輪を保有している可能性が高いというのが、リオンの見解だ」


 首輪の規制が公布こうふされたのが、今から約80年前。その当時から隠し持っていたのか、現在になって集めたのかは分からない。

 が、前者だった場合、密売組織はかなり昔から存在していることになり、後者だった場合、更に規制品を収集できるだけの財力とコネがあることになる。

 1番面倒、というか危険なのは【鹵獲の首輪】を造る技術があること。


「だが、あの首輪はアーティファクト。つまり人間の持つ素質では再現できないと言われている物の1つだ」


 ダンジョンから得られるアーティファクトは、今のところ再現するにはいたっていないらしい。

 まぁ、魔物を使役テイムする魔法って、どの素質でも出来なさそうなのは分かるなぁ。

 【鹵獲の首輪】以外にも魔物を使役するアーティファクトは存在していて、それを使って強力な魔物を戦力にするのは珍しくない。

 ただ、そのアーティファクトの効果では契約内容に限界があって、例えば魔物の命を捨てさせるような命令は出来ないようになっている。

 契約そのものをどうこうすることは出来ないが、命令をきくかどうかは魔物側にも選択肢があるようだ。

 もちろん、全く命令を聞かないのであれば使役しているとは言えないので、命令を反故ほごにすると何かしらの罰則を魔物に課せられるようになっている。

 例えば、強制的に身体を麻痺まひさせられたり、魔道具から強力な電流などが発し痛みをあたえたり。

 その設定も魔道具の質や種類によって代わり、更に持ち主によって有無や強度を調節出来る。

 しかし【鹵獲の首輪】は、そういった「安全装置」的なものがない。

 ただ魔物の意思を縛り、命令を強制させる為の魔道具だ。


「本来は普通の魔道具では使役し切れない、危険な魔物を無害化する為の魔道具だったのだろうがな」

「元の使用法と違った使い方をされるのは、ありがちな話だものねぇ……」


 そう溜め息をつく2人。

 私? 魔物になっちゃった元人間目線で言わせると、使役っていわば奴隷化のようなものなので、普通の魔道具でもちょっと……って感じです。

 とはいっても、戦闘力のない一般人には魔物はどれも危険なので、街中でともなわせるなら「首輪」は大事だよね、とも思ってしまう。

 お兄さんが私を信用して、そういった使役アイテムを使わずにいてくれるのはとても感謝です。ちゃんと大人しくできるもんね!

 実際のところは、私ではなくお兄さんが高名な冒険者だからOKが出てるんだけどね。当然といえば当然。


「冒険者ギルドとしては、複数のアーティファクトを所持している可能性から、密売組織が予想よりも大規模なのではないかという報告を上げる予定だそうだ。カルパタにどれほどの影響が出るかはまだ未知数だが、これからもこの件には関わっていることになると思う」

「にゃーん……」


 うぅ……ということは、あのと今後も付き合っていくことになるのかぁ。

 本当に、こう……ぞわっとするんだよね。アレさえなければ、せめて抑えたりできればなぁ……。

 思わず視線を落として溜め息をついてしまうと、セルナさんが優しく背中を撫でてくれた。

 と、お兄さんが席を立つ気配がすると、私と目線を合わせるように膝をつく。


「…………どうする? 密売組織を追う時は、ここで待っているか?」

にゅうむむ


 ようやくお兄さんの役に立てるようになったのに……こんな中途半端で諦めちゃうなんて…………。

 この話を聞かされた時の私のやる気を見ているお兄さんに、さすがに呆れられちゃうんなじゃないかと、そっと視線を上げる。

 しかし、そこにあったのは、ただ私を心配する紫の瞳だった。

 不思議と、私の中の不安が小さくなった。


「うにゃ」


 プルプルと首を横に振る私に、お兄さんが少しだけ意外そうな顔をする。

 だけど、すぐに無表情だけど優しい、そんないつもの表情で私の頭を静かに撫でた。


「そうか。偉いな」

「にゃう!」

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