第21話 猫好きな猫又と従姉
酒場で怪しい男を見つけ、誘導からの誘拐現行犯での逮捕を終えた、翌日。
昼間はディオさんの従姉であるセルナさんのところでお世話になっていた。昨夜に男が持っていた首輪のせいで、私の野生の勘が超
私に野生っぽさが残っていた……というか、あったことに驚きだけど、あの首輪からはそれだけヤバさが
あの首輪を持っているだけで、お兄さんにすら近寄れなかったもん。
そのせいでお兄さんが少しだけ寂しそうにしていた。大丈夫! お兄さんのことは大好きですよ!
捕らえた男は冒険者ギルドに受け渡しに行かねばならず、しかし、私は首輪の近くに寄りたくない。
警戒心で興奮状態になっている私を
「よーし、店仕舞いしようか!」
「
夕方になり客足が途絶えたところで、セルナさんが声を上げる。
私も元気に返事をするが、残念ながら
招き猫の如く、店頭で客寄せになっていた私が使っていたクッションくらいだろうか。
なんと、子猫サイズのクッションである。セルナさんが作ってくれた。かわよ。
それを口に
店内に全てのお花をしまい、店の戸を閉める。
「今日、ディオはお迎えに来るのかしら?」
「
どうでしょう。
お兄さんは去り際に「もしかしたら遅くなるかもしれない」としか言っていなかったもんなぁ。
遅くって、今日の遅く? もっと遅くなるということ?
セルナさんと一緒に首を傾げるも、答えが出るわけもなく。
「ま、そのうち来るでしょっ。ご飯にしましょう!」
「
明るいセルナさんの性格のおかげで、私の興奮状態も完全に鎮静化した。
何となく、こう、後頭部がまだザワザワするような嫌な感覚は少し残っているけど、それも時間の問題って感じだ。
お店と繋がっているお家に移動すると、キッチンに立つセルナさんと私。
「さぁて、ルフスちゃん。何が食べたいかな?」
「
テーブルの上に乗った私の前には、お肉、お魚、お野菜が並んで置かれている。
言葉は通じるが言葉は話せない私との上手い意思疎通を考えてくれる、セルナさんは良い人です。
さて。ここで問題なのは、私は普段、ミルクしか飲まないということである。
この間、初めてミルク以外のものとしてナッツを食べ始めた。しかし、考えてみてほしい。
ナッツは、ご飯ではない。おやつorおつまみ。
肉といえば、フレイムボアの肉(生)をパクついた記憶もあるが、アレは魔物の素材であってご飯ではないのだ。
猫といえば、お魚のイメージだ。しかし、魔物ならお肉だろう。
3つの選択肢の前で
悩む子猫の姿、さぞ可愛いだろう。
「
散々悩んだ私は、最終的にお魚を指した。
小さな肉球でお魚をポンと叩くと、セルナさんは腕まくりするような仕草をした。
「お魚ね! ルフスちゃんの為に、張り切っちゃうんだからっ」
パチンとウィンクしてくる美女、ご馳走様です。
それから手際良くお料理を始めたセルナさんと。
その近くをウロチョロし、美味しそうな匂いに涎を垂らし、美味しそうな音に涎を垂らし、美味しそうな料理たちに涎を垂らした私。
「かんせ~い!」
「
最後はセルナさんの右肩に乗り、完成の言葉に肉球をポムポムする。手拍子ならぬ、肉球拍子。
テーブルの上に綺麗に盛り付けられ並べられた料理たちに、目を輝かせる。
なんと、セルナさんはお魚を使って数種類の料理を作ってくれたのだ。
さすがに生魚はないが、焼き物、煮つけ、炒め物、汁物と並んでいる。
ディオさんが来ても良いように、3人前の大盛りだ。私は1人前も食べられないだろうが、お兄さんは男の人だしいっぱい食べるから大丈夫でしょう。
私ように少しずつお皿から取り分けてくれたセルナさんが、ニコニコと私を見つめる。
「さぁ、召し上がれ」
「
まずは、シンプルに焼き魚。調理を見ていた限り、味付けも塩コショウらしきものしか使っていなかったと思う。見た目は知らないお魚だったが。
パクリと一口。出来立てなのでホワッと広がる湯気と、それと共に広がる香り。口の中に入ったお魚は、フワッフワの食感だ。
これは……食べたことある味だ。そう、鮎だわコレ。昔、川遊びしに行った時にお父さんが釣ってくれたのを食べた記憶があるよ。
その鮎を、更に癖がなく、深くしたような味である。
つまり、
「
大興奮。美味し過ぎる。
嬉しそうなセルナさんの勧めで他の料理にもパクつき、全ての料理に感動の声を上げた。
何あの煮つけ……あの短時間でなんでこんなに味が染みっ染みになるの……?
何この炒め物……ちゃんと葉野菜も入ってるじゃん……好き……うま……。
何その汁物……子猫でも食べやすいサイズのつみれとか優しい……。
と、どの料理も文句なしの超絶美味でした。
美人で優しくて、裁縫も料理も得意で、女の子の夢ベスト10に入る花屋さんやってて…………セルナさん、完璧過ぎでは……?
そんな完璧美女の膝上で、食後のナデナデ攻撃により溶けていたところに、お兄さんのお迎えが来た。
「……野生の欠片もないな」
いつか聞いた言葉の中には、呆れと少しの安堵も含んでいた。
すっかり落ち着きました。ありがとうございます。にゃふぅ。
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