第14話 猫好きな猫又と調査依頼③

 帝都から馬車に揺られて約2週間ほどの位置に、ここカルパタの街はあるらしい。

 帝都よりも国境に近く、おさめているのはロングバーツ伯爵家。先々代の時代に子爵から伯爵へと陞爵しょうしゃくされた。

 そして、このロングバーツ家も魔物密売に手を出した貴族の1つだった。


「帝都の屋敷で飼われていた魔物はすでに回収済みですが、どうにもカルパタに移送された形跡があるそうで」

「……まさか、それも調査対象なのか?」

「いえいえ、さすがにそれは犯罪になってしまいますからね。いくら国からの依頼だろうと、冒険者に犯罪をおかさせるような仕事は受けないのが本部を含めたギルドの方針です」


 しっかりと頷いてみせたリオンさんは、手元の資料に視線を落とした。


「こちらで受けた仕事は、基本的に街での調査と、仮に荒事あらごとになった場合の戦力になります」


 帝都にはたくさんの貴族の屋敷があり、街も広い。販売販路も経路も比例して多いが、カルパタは少し規模の大きな郊外こうがい都市。

 当然、貴族も治める伯爵家しかなく、客層は平民に移ることとなるだろう。

 しかし、魔物は捕獲するのにかかるコストの為、それなりに高値で売買されており、そこらの平民が手を出せるような値段じゃない。

 それなのに、街では複数の密売に関する情報が見つかっている。


「つまり、ここは国外との足掛かりにされている可能性がある、と」

「さすが、オルディオ様。顔だけの男ではありませんね」


 お兄さんが頷き、リオンさんが頷いて同意し、お兄さんが顔を引きらせた。私もよく分かっていないが、ふんふんと頷いておく。

 えーっと、つまり国外に近いカルパタで情報を流すことで、他の国にもお客さんを作ろうとしているって、ことだよね。

 あれかな、駅周りでビラを配ってるようなものかな。


 帝国は国土が大きく、国境沿いの街は帝都よりも国外の国境沿いの街と縁深かったりするそうだ。

 なので国境をまたいで取引する商人も多く、お兄さんのような冒険者が行き来することも珍しくない。

 国境で問題が起きた場合、互いの国の冒険者ギルドが協力することもある。


「ちなみに冒険者ギルドは国営ではなく、自由組織となっております。国から支援金などの援助や仕事の依頼はありますが、あくまでも民間の企業であり、国からの命令を受けることはありません。もちろん、ギルドがある国の仕事は優先的に受けるなどのサービスはしますがね」


 とのこと。

 そしてカルパタを治めるロングバーツ家も、隣国の郊外都市とえにしを結んでいた。

 それが友好国でもあるオスティアン王国の伯爵位、ラインバッハ家の治める街オグニス。

 先々代からの付き合いで、今も気軽に人が行き交う仲だ。

 お兄さんも何度か行ったことがあるらしい。

 2つの街に支店を出す商人も多く、その行き来の安全の為に道が整備され、民間の馬車の往来も増えた。その商隊や馬車の警護の仕事として、冒険者も移動する機会が増える。

 そんなわけで、カルパタとオグニスは人の往来がし易い分、情報の伝達も容易い。

 足掛かりにするには丁度いいようだ。


「ただ最近の両家の仲は、あまりよろしくないそうです」

「あぁ……まぁ、そうだろうな」


 リオンさんの笑みを浮かべた言葉に、お兄さんはどこか遠い目をして頷いた。

 どういうことかと首を傾げると、お兄さんが頭を撫でながら教えてくれた。


「先々代のロングバーツ家当主とラインバッハ家当主はな、【二振りの英雄】として有名なんだ。当時、ミアの森で強力な魔物が生まれ、そのせいでカルパタとオグニスに大津波スタンピードが起きた」

「もともと武功をたてて爵位を得たロングバーツ家当主とラインバッハ家当主は、先頭にたって大津波にあらがいました。そして大津波を乗り切った後、両者は共にミアの森へ遠征へ向かい、見事、大本の魔物を討ち取ったのです」

「その魔物を討伐したのが、主に当主2人だったらしい。その時の戦いで、まるで1人の人間が二振りの剣を振るっているかのような息の合った連携をみせたのが【二振りの英雄】の由来だ」

「彼らは互いを無二の戦友として縁を結び、そして伯爵位を得てからも頻繁ひんぱんに交流を重ねていたそうです」

にゃ~へ~


 リオンさんの説明も加わり、私はふんふんと頷いた。詳しい説明ありがとうございます。

 しかし本題はそこからだったようで、リオンさんの穏やかな笑みに、どことなく凄みが増したような気がした。


「それが今の当主方ときたら、畑のやしにもならないような方たちですからね」


 どうやら毒も増したようだ。

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