第13話 猫好きな猫又と調査依頼②
ギルドマスターさんは他にも仕事が溜まっているらしく、詳しい話は別の人がしてくれるらしい。
ギルドマスターさんが退室した部屋で、お兄さんに背中を撫でられたりしながら待っていると、コンコンとドアがノックされた。
お兄さんの返答にドアが開く。入って来たのは、眼鏡をかけた優し気な男性だった。30代くらいかな。
「お待たせしましたか?」
「問題ない」
お兄さんが小さく頷くと、男性は笑みを浮かべて対面の椅子に腰かけた。
若葉色の髪を伸ばし、左肩に流している。まとめている髪紐は、昔に見た日本の
大きめの上衣に裾の広がったパンツと、全体的にユルッとした印象を受ける。
そこに穏やかな表情と声音が合わさると……何とも眠たくなるような雰囲気があるなぁ。
ジッと私が見上げていると、眼鏡の奥にある髪と同じ色をした瞳がこちらを向いた。
優し気に細められた目に、私もつい笑顔を返す。
「本当に
笑顔が引き
すっかり私の猫顔を読み取れるようになったお兄さんが、深々と溜め息をついた。
「……相変わらずだな、リオン」
「おや、お気に召しませんでしたか?」
変わらず穏やかな表情のまま、リオンさんが首を傾げる。
サラサラな髪が揺れているのを遠い目で眺めていると、お兄さんが私の頭を撫でた。
「いいか、ルフス。今のお前への言葉は『小さくて可愛い』という意味だ。俺に向かっての言葉は『旅の供ができたようで安心した』だ」
「
「そう聞こえませんでしたか? これは失礼」
いや、えぇ……? 本当に?
お兄さんがめちゃくちゃポジティブ方向に解釈しているわけじゃなく?
何故か不思議そうな顔でまた首を傾げるリオンさんからは、少しも悪びれた様子はない。
つまり、お兄さんの通訳は正しいと。
「
「改めまして、ルフス様。私はこのカルパタ支部冒険者ギルドのサブマスターを
そういって、リオンさんは丁寧に頭を下げた。
サブマスターってことは、このギルドで2番目に偉い人ってことか。
あ、そうだ。ちゃんと挨拶されたのなら、私も返さないと。
「
お兄さんの膝から降りて、ソファの隣でペコリと頭を下げる。それが挨拶だと理解できたのか、リオンさんは目を丸くした。
「噂は聞いておりましたが、本当にこちらの言葉を理解できているのですね」
「さすがに文字は分からないようだが、話す分には問題なさそうだ」
「そうですか。矮小な身でありながら、素晴らしいですね」
「……その、矮小という表現はやめた方が良い」
「失礼。何分、癖なもので」
フワリと微笑んだリオンさんは、右手の指で眼鏡を押し上げた。
「さて。オルディオ様も忙しいお立場ですから、早速、説明させていただいても?」
「よろしく頼む」
「かしこまりました。まず、ギルドマスターから報告書は受け取られていますか?」
「あぁ」
お兄さんが頷き、横に置いていた数枚の紙を手に取ると、リオンさんが頷く。
「すでに目を通されていらっしゃるかと思いますが、それへの補足を少し」
ついでに文字が読めない私へ向けて、報告書の内容も話してくれた。
まず第一に、この魔物の密売は帝都で
すでに数ヵ所の売場を取り押さえているが、どれも小さなオークションであり、開催者も
ただ、密売が行われている範囲と
委託された開催者を
唯一、声や体格からして相手が男であったことは掴めている。が、それも開催者ごとに違う印象を答えていることから、別々の人間が接触しているようで、絞り込みができていない。
客となっている貴族たちはと言うと、いつからか、社交界で『魔物を飼う』ことが一種のステータスだという考えが
もちろん、法的には禁止されているため、大っぴらに自慢したりはしない。
ただ裏でこっそりと、
「暇を持て余すと何をしでかすか分かりませんね。困った子たちです」
リオンさんは本当に困ったような顔をしているが、相手は貴族なうえに、恐らく、リオンさんよりも年上もいるだろう。
お兄さんも反応に困って、とりあえず無言で頷いていた。
話を戻すと、貴族たちもそういった流れに乗っているだけで、その考えとなった出所は知らないらしい。
そして、この話は主に中級貴族までの間で出回っている。
貴族の階級は、男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵の基本5つで構成されている。これに騎士爵や
そのうちの、伯爵位までが密売の客層だ。
密売に手を出した貴族は、今のところ減棒するだけに
しかし、仮に飼っている魔物が街中で暴れ、民間に被害を出すようなことがあれば、最悪、家の取り潰しになるそうだ。
実際、ひと月程前に脱走した魔物による被害で死人が出たらしく、1つの家が取り潰しになった。
そのことを国のトップである皇帝が通告したことで、手を出す貴族はかなり減ってはいるらしい。
「そして、そのせいもあってか、帝都から程よく離れたこのカルパタの街で、今度は商売を始めたようですね」
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