第12話 猫好きな猫又と調査依頼

 今日もお兄さんと共に、冒険者ギルドに訪れた。

 受付にはお馴染みのレリアーナさんが座っていて、私達を見て嬉しそうな笑みを浮かべる。

 綺麗なお姉さんの崩れた笑み、ご馳走様です。


「おはようございます、オルディオ様、ルフスちゃん」

「おはよう」

にゃんにゃおはよう!」


 お兄さんの肩から受付のカウンターに飛び移ると、レリアーナさんが優しく頭を撫でてくれた。お返しに私も手にスリスリと顔をり付ける。

 私が挨拶スキンシップをしている間、お兄さんはギルドの依頼が張り付けられている掲示板を眺めていた。

 そして1枚の紙をがしてくると、カウンターに乗せる。


「これを」

「えへへ……あっ、はい! 少々お待ちくださいっ」


 子猫わたしの可愛さにデレデレしていたレリアーナさんは、お兄さんに話しかけられると恥ずかしそうに頬を赤くした。

 慌てて依頼書を手に取ると、中身をサッと目を通す。


「……はい、確認しました。それでは――」

「――おぉ、良い所に!」


 レリアーナさんが依頼に許可を出そうとするのにかぶせるように、ギルドに大きな声が響いた。

 聞き覚えのある声に目を向けると、奥の部屋からギルドマスターさんがたくましい身体つきに似合わない人懐こい顔を覗かせている。

 その目は明らかにお兄さんに向いていた。ちょいちょいと手招きされる。


「オルディオ、ちょっと来てくれ」

「分かった」

「あ、では、こちらの依頼は念のため保留にしておきますね」

「すまない、助かる」


 レリアーナさんの気遣いにお兄さんが軽く頭を下げ、私を抱き上げるとギルドの奥へと入っていった。

 この前にも通された部屋に、お兄さんとギルドマスターさんが向かい合って腰を下ろす。私はお兄さんの膝の上で丸まった。

 すぐにギルドのスタッフらしき若い男性が2人分のカップを持ってきて、テーブルに置くと礼をとって退出する。

 それを見送ってから、ギルドマスターさんが口を開いた。


「悪いな。また指名で依頼がある」

「問題ない。何の魔物だ?」

「いや、今回は討伐依頼じゃないんだ」

「……? それを俺にか?」


 お兄さんが不思議そうに首を傾げる。

 私もてっきり、またオンラルク鉱山の時のように強い魔物が現れたのかと思ったんだけどなぁ。

 何やら困った表情を浮かべるギルドマスターさんは、チラリと私を見た。うん?


「あー。俺が前に、帝都で魔物が密売されているっていう話をしたの、覚えているか?」

「……あぁ、オンラルクの時にチラッと話していたか……?」

「そうそう、その話だ。実は、どうも帝都だけじゃなく、このカルパタでも商売を始めたって噂があるんだよ」


 ほぇー。魔物って密売なんてされるんだ。狩って退治するってイメージが強いけど。

 私がいうのもなんだが、魔物ってペットとかに出来るのかな? 動物に比べて攻撃的で狂暴な感じだけど。

 素材が欲しいだけなら、わざわざ生きたまま取引する必要もないだろうし。それこそ冒険者にでも依頼を出せばいい。

 愛玩あいがん動物的な扱いをするにしても、危なくておりから出せない気がする。観賞用か?


「その噂の信憑しんぴょう性はあるのか?」

「無視できない数の情報が上がってきている。ただ、どうも相手の尻尾が掴めなくてなぁ」

「なるほど。その調査をしろと」

「そういうこった」


 頷くお兄さんに、ギルドマスターさんが何枚かの紙を手渡した。

 私には読めないけど、軽く目を通したお兄さんが微かに眉を寄せた。


「……確かに、デマと考えるには多いな」

「そもそも、その密売の話自体、そう大っぴらな情報じゃないんだ。俺もギルド本部からの伝達で知ったからな。帝都ならまだしも、そこそこ距離のあるカルパタで密売の話を知っているだけでも、ちょっと怪しいところだ」


 ギルドマスターさんの話を聞きながらも手元の紙から顔を上げなかったお兄さんは、暫くして視線を戻した。


「分かった。引き受けよう」

「おぉ、助かる!」

「ただ」


 お兄さんの静かな瞳が、スッと細められた。


「俺は特に調査が得意な冒険者じゃない。討伐依頼ならまだしも、調査依頼をわざわざ持ってきた理由があるな」


 ジッと睨みつけるようなお兄さんの視線を受け、ギルドマスターさんは少しだけ目を逸らすと、きまり悪げに頬を掻いた。

 そしてまた、チラリと私を見た。ううん?


「……あー。そうだな、こちらから頼むのに隠し事はなしだよな」

「まぁ、大体の予想はつく」

「悪いと思ってるよ」


 どうやらお兄さんは理解できているようだが、私はさっぱりである。

 調査が得意でもないのに、お兄さんに依頼を持ってきた理由があるんだよね…………?

 お兄さんの得意分野といえば、戦闘と、あとは…………顔の良さ?

 私がだいぶ失礼なことを考えながら首を傾げていると、お兄さんに背中を撫でられる。


「ルフスのような珍しい魔物を連れていれば、何かしら接触があるだろうということだ」

にゃーうなーる


 つまり、私で釣れ、と。

 だからギルドマスターさんが、さっきから私をチラチラ見てくるのか。てっきり触りたいのかと思っちゃったよ。

 それにしても、これはアレだね。「おとり調査」というやつだね!

 お母さんが好きだった刑事もののドラマでよく見るやつを、まさか私がすることになるとは。

 魔法も使いこなせるようになってきて、ようやく私もお兄さんの役に立つ時がきた!


にゃうにゃがんばる!」


 ふんふん鼻息を荒くする私に、お兄さんは仕方なさそうに溜め息をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る