第10話 猫好きな猫又と魔法訓練②

 誤魔化し笑いをする私を頭を苦笑したお兄さんがクシャリと撫で、次のお題に移った。


「次は【雷】か。ふむ……」


 どうやって魔法を発動させようか、お兄さんが首を傾げている。

 雷かぁ。まぁ、分かりやすいのは空から落ちるあの雷だけど。あとは……灯りをつける、のはだもんな。

 静電気で毛を逆立ててみる?


「……どうした、何かあったか?」


 伝わらなかった。むしろ何かに威嚇いかくしているのかと、お兄さんに警戒させてしまった。ごめんなさい。

 静電気って、もしかして知られていないのかもしれない。

 逆立った毛を舐めて戻しつつ、私も懸命に案をひねる。

 そこで、【雷】の素質を得る為に食べたサンダーヘッジという魔物を思い出した。確か、サンダーヘッジは嵐が来ると活発になって、周囲に微弱だけど雷の魔法を放出するらしい。

 そのせいで、水溜まりを踏んだら近くにいたサンダーヘッジが放電していて、水を通して感電する事故が多発する。

 それを私もやってみれば良い。

 目の前にある私が作った土の器に、また水の魔法を放つ。半分くらいになったら、そこに紫の尻尾を突っ込む。


「ルフス?」


 尻尾からかるーく放電する感じで……お、良い感じ。


「にゃーう」

「なんだ?」


 お兄さんに、黒い尻尾を使って、器に手を入れてみてほしいと伝えてみる。

 不思議そうにしながらも、お兄さんは右手を器に無造作に入れた。


「っ⁈」


 咄嗟とっさに手を引き抜いたお兄さんの反応に、私は楽しくなって笑った。

 私が放電している今の水の感触は、なんというか、くすぐったいくらいにピリピリする。

 中学生の修学旅行で体験した、ドクターフィッシュに突かれる感じが近いかもしれない。


「これは……そうか、サンダーヘッジが起こす感電を再現しているのか」

「にゃん!」


 原理が分かったお兄さんも、始めは警戒してゆっくりと手を差し入れていたけど、少しすると楽しそうな空気を感じた。

 暫くの間、雷の威力を高めたりして遊んでしまった。

 理科の実験って、楽しいよね。勉強はさっぱりだったけど。


「ごほん、次だ」


 魔法の訓練を忘れて楽しんでしまったのが少し恥ずかしいのか、お兄さんが改まった表情で言った。

 私? 子猫だからそんなこと気にしません。人でも気にしないが。


「【木】は植物を操る。ここの草を成長させてみろ」


 広がる草原を指して、お兄さんが言う。

 木の魔法はミラの森で狩ったウッドバードのもの。あの時は、木の根を操ったりしていたっけ。

 子猫わたしの半分くらいの背丈がある草は、よくある雑草に見える。それが、そうだなぁ、子猫わたしの身体を覆いつくすくらいに成長する様を思い浮かべた。範囲は私を中心に半径50センチくらいかな。

 すると思ったよりも草の成長が良くて、子猫わたしをさっさと追い越すと、お兄さんの膝くらいまで急成長してしまった。


うにゃうわ⁉」

「ルフス⁉」


 慌ててお兄さんに救出されました。抱え上げられたお兄さんの腕から見下ろすと、見事に私がいた場所がサークルになっている。

 違和感が凄い。でも森の中とかなら、咄嗟に身を隠すのに使えるかもしれない。加減が難しいから、練習次第だが。

 急成長させた草は、お兄さんの風魔法で刈り取られました。草刈りが楽になる魔法です。


「さて、最後は【毒】なんだが……」


 これまた困ったように首を捻るお兄さんに、私も考える。

 ベノムモールは牙から毒が出て、噛みついた相手を弱らせ捕食する。フレイムボアを生肉として美味しそうだなと思った私だが、さすがに毒で弱った肉を美味しそうだなとは思わなかった。

 良かった、まだ大丈夫そう。私の感性しょくよく

 お兄さんに向かって試すなんて私は絶対に嫌だし、毒液をただ出してみせてもよく分からないだろうし。

 うーん。あ、草刈りで思いついた。除草剤って、草にとっては毒みたいなものじゃない?

 それなら傍目にでも効果が分かりやすいよね。

 そんなわけで、また器に入った水へ尻尾を突っ込む。


「ん? 今度は何をするんだ?」


 お兄さんが興味深そうに眺めるも、特に止める気配はない。

 だが、その後の光景には、端正な顔を引きらせていた。


にゃんえい!」


 そんな掛け声とともに、私は尻尾についた水(除草剤)を周囲に撒いた。


 ジュワッ!!


 蒸発するように草が溶けた。


「……………………」

「……………………にゃおoh


 名付けて毒魔法:除草剤は使用禁止になりました。

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