第9話 猫好きな猫又と魔法訓練

 本日も朝から天気良く、晴天が広がっている。ポカポカ陽気が眠気をさそう……。

 っと、今日は寝ぼけている場合ではない。


「よし、じゃあやるか」

にゃんはい!」


 お兄さんの声に、私も元気よく返事をした。

 周囲はひらけた草原、他に人や魔物の姿はない。いつも通りである。

 今日の目的は、昨日、レヴァさんのところで新しく得た素質の魔法訓練。ただ魔力を動かそうとジッとしてただうなっていた日々が懐かしい。

 まぁ、そんな前のことじゃないんですけどね。

 私が新しく得た素質は、


 フレイムボアから【火】

 ウォータースネークから【水】

 クリスタルドラゴンから【土】

 サンダーヘッジから【雷】

 ウッドバードから【木】

 ベノムモールから【毒】


 の計6つ。

 通常は1つ。2つでも珍しいという世界で、素質を6つも持っているなんて私だけではないだろうか。

 さすがに未知の領域なので、昨日いっぱいは様子見ということで大人しくしていた。

 だけど、今朝もいつも通り元気に動き回る私にようやく安心したのか、こうして訓練に移ったというわけです。


「順番にいくか。まずは【火】から」


 お兄さんが少し距離を取ると、スッと右手を上げた。

 すると私とお兄さんの間に高さ50センチ、横20センチ、幅20センチほどの氷の壁が出来上がった。

 お兄さんの持つ【風】と【氷】の素質のうち、氷の魔法だ。


にゃおおお

「その壁に向かって、火の魔法を放ってみろ」

にゃんはい!」


 ふぅ、と息をはく。魔法を使うには集中とイメージが大事だ。

 イメージは、ドラゴンが火を噴く感じ。


にゃ!」


 私の後ろで揺れる2本の尻尾のうち、紫色の尻尾から魔力が巡り出す。

 血の流れのように身体を伝い、そして開いた口から火の球が飛び出した。同時に身体から何かが抜け出る感覚。魔力が消費されたのだ。

 よし、成功! サイズは子猫の口程度なのでピンポン玉くらい。それがまっすぐに氷の壁にぶつかると、当たった部分を少し溶かしながら消滅した。

 残念ながら壁を壊したり穴を開けたりする威力はなかった。

 私は少し弱かったかなって思ったんだけど、お兄さんは納得のいくものだったらしい。

 1つ頷くと、手元の紙に書き込んでいく。

 レヴァさんから、しっかりと観察記録を頼まれていた。


「発動速度、威力、射程、どれも問題ない。狙いも正確。魔力が扱えるようになってからの時間を考えれば、優秀な成長ぶりだぞ」

にゃふぅ~えへへ~


 お兄さんに褒められてしまった。

 照れて尻尾をフリフリさせる私に、お兄さんも穏やかに微笑んだ。


「じゃあ、次だ」

にゃんはい!」


 気合を入れて返事をすると、氷の壁が壊れ、今度は氷の器が出来上がる。

 料理に使うボウルのようだ。


「今度はそれに水の魔法」


 水の魔法のイメージは、ひねると水が出る蛇口じゃぐちだ。

 これがなかなか難しくて、自分の身体の近くからなら問題ないのだが、離れた場所となるとイメージが曖昧あいまいになってしまって、ちゃんと発動しない。

 なんか、空中からいきなり水が湧き出すというイメージが思いつかない。

 氷の器に近寄ると、そのふちに前足を置いた。


「にゅう」


 イメージの中で蛇口を捻ると、器の中へ水が段々と溜まっていく。子猫わたしが入って調度いいくらいのサイズなので、すぐに一杯になった。


にゃーおできた!」

「どれ……うん、量も十分だな。にごりもないし……やけに綺麗な水だな?」

にゃう濁り?」


 そりゃ、お水なんだから透明な……って、そうか!

 こっちには蛇口なんてないし、水道が引かれているわけじゃない。捻れば飲める水が出るなんて、地球でも珍しいとか聞いたことがある気がする。

 こっちの飲料水といえば、街中であれば井戸水。外なら川。どちらも綺麗ではあるけど、濁りがあるといえばある。

 私は割と大雑把おおざっぱな性格をしている自覚があるので、多少の濁りがあっても味に問題がなければ気にしないが。

 ちなみにカルパタの井戸水は美味しい方らしい。

 器の覗き込んでいたお兄さんが、指を水にひたすと口に含む。驚いているのか、微かに目が見開かれた。


「凄いな、ここまで苦みのない水は初めてだ」

にゃふぅ~えへへ~


 また褒められてしまった。今日から飲み水は私が魔法で出そう。

 待てよ……私が水を出して、お兄さんが氷を出せば、いつでも冷たい美味しいお水が飲めるということ? 暑い夏には最強じゃない⁉


「次は【土】か。そうだな……これと同じような器を作ってみろ」


 あごに手を添えて考えていたお兄さんが、自分が作った氷の器を指す。

 お、目の前に手本があるのはイメージし易くていいな。

 氷の器をジーッと観察しながら、土を固めていくイメージで魔法を使う。アレです、土器を作る感じ。

 底から徐々にせり上がっていくように、氷の器の横に土の器が出来上がった。


「少し触るぞ……触っても崩れないし、それなりに強度が…………あるというレベルではないな」


 しまった。土器とか考えるから、焼き上げた後を想像していた。

 表面の触った感触は、ただの土ではなく、少し凹凸おうとつは感じるもののツルリとしたものだった。

 きっと落とした時は、崩れるのではなく、割れると思う。

 呆れた表情でお兄さんが言う。


「これで殴れば人が死ぬな……誰が武器を作れと」

にゃにゃふぅ~えへへ~……?」


 とりあえず笑って誤魔化ごまかしておこう。

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