第8話 猫好きな猫又と新能力

 今、私の目の前には様々な魔物の素材が並べられている。


「ルフス……」


 ディオさんから呆れた目で見られる。おっとよだれが垂れてましたか。

 レヴァさんの研究室にて、散らかっていた資料やら本やらを片付け、空いたテーブルの上に素材を置いている。

 青色のうろこ、茶色の尻尾、緑色の羽根、銀色のとげ。それぞれ冒険者ギルドに討伐証明として提出される素材だ。

 緑色の羽根、あれはお兄さんとミアの森へ初実戦にのぞんだ時に、ウッドスライムにまぎれて討伐していたウッドバードの頭に生えていた羽根だ。

 青色の鱗はウォータースネークと呼ばれる蛇型魔物のもので、みずうみに生息し【水】の素質を持っている。住処すみかの水質に合わせ鱗の色が変化し、擬態することで獲物に気付かれることなく捕食ほしょくする。がれると全て同色になるそうだが。

 茶色の尻尾はベノムモールと呼ばれるモグラ型魔物のもので、地中に生息し【毒】の素質を持っている。牙から毒を分泌し、噛みついた獲物を溶かして弱らせる性質がある。

 そして銀色の棘はサンダーヘッジと呼ばれるハリネズミ型魔物のもので、亜熱帯地域に生息し【雷】の素質を持っている。嵐の後は活動が活発になるので、「水溜まりには安易あんいに足を踏み入れるな」と言われるそうな。

 レヴァさんの説明を聞きながら、私は涎を垂らしていたというわけです。はい。


「私の手元にあるのは、今はこの4つだ。君は確か、フレイムボムから【火】の素質、クリスタルドラゴンから【土】の素質を受け継いでいるわけだから、6つの素質を得ることになるねぇ」


 そう口にするレヴァさんの手には、すでに紙とペンが握られている。観察する気満々な様子で、キラリと眼鏡を輝かせていた。


「大丈夫なのか? そんないきなり、複数の魔物を食べるなど……」


 ノリノリなレヴァさん(と食欲な私)に対して、お兄さんはとても不安そうだ。

 まぁ、フレイムボアを食べた時は魔力酔いで倒れたわけだし、お兄さんの反応も過剰とはいえない。

 しかし、最近クリスタルドラゴンのつのを食べてピンピンしている私である。

 魔物として上位にあるドラゴンの力を体内に入れて大丈夫なら、他のなど気にすることはない。そうレヴァさんも言っていた。


「何かあっても良いように、こうして私も控えているんじゃないかい」

「その手にあるものはなんだ」

「見ての通り、紙とペンだけど?」

「何かあっても観察を優先するんじゃないだろうな……?」

「……はは、まさか!」

「おい今の間はなんだ」

「さぁ、おチビちゃん! まずはこれからいこうか!」


 全力で誤魔化そうとするレヴァさんは、私の前に青色の鱗を置いた。ウォータースネークの鱗だ。

 近寄って匂いを嗅ぐと、微かに水のような匂いがした。


「これはオルディオが採ってきたんだったね」

「アラル湖の依頼でな。ベノムモールもカールア平原の依頼だ」

「あぁ、最近増えたとか聞いたねぇ」


 確か、私が落ち込んでいる時に気分転換でもしようと、お兄さんにギルドへ連れてきてもらった時に、オンラルク鉱山のクリスタルリザードの依頼と一緒に紹介されていたやつだったっけ。

 そういえばお兄さんが半日くらいいなかった時があったけど、その依頼を受けていたのかな?

 ちなみに私はその頃、ディオさんの従姉であるセレナさんの所へ預けられ、店頭で看板猫をしていました。お客さんに構ってもらえて楽しかったな。『ルフスちゃんのおかげで今日の売り上げ良かったの!』と嬉しそうに笑っていた。

 でも、どうせなら私も討伐に連れていってほしかったなぁ。

 そんな不満が顔に出ていたのか、お兄さんが苦笑して頭を撫でた。


「もともと危険だからと俺に回って来た依頼だ。さすがにルフスの練習には荷が重い相手だった」


 そういうことなら仕方ない。

 少し前の私なら「私が力のない足手まといだから」とネガティブモードになっていただろうが、今の私は違う。

 役に立てる道が見えてきて、お兄さんの気遣いがただ私を心配してのものだと、ちゃんと気付けている。

 それにネガティブに落ち込んでいる暇があるなら、練習・実践あるのみ。

 今日のは、その1つだ。


にゃーおいただきます!」


 子猫わたし用一口サイズにカットされている鱗を、パクリといった。

 恐らく鱗の中でも薄いものを用意してあったらしく、パキッと音を立てて鱗を噛み砕いた。感覚的にはスナック菓子のよう。あ、炭酸飲みたい。味はほとんどなく、少しだけ苦みがあった。

 そのままモグモグしてから飲み込む。

 少し待つと、身体の中でいつもと違うを感じた。


にゃんえい


 中身が空になっていたビーカーに向かって、私は【水】の魔法を放った。空中に現れた水球が、ビーカーへと落ちる。


「うん。ちゃんと【水】を取り込めたようだねぇ。体調はどうだい?」

にゃーう大丈夫


 プルプルと首を横に振ると、レヴァさんは頷きお兄さんは安堵あんどの溜め息を零した。紙に何かを書き記しながらレヴァさんが面白そうに笑う。


「本当に過保護だねぇ」

「うるさい」


 ちょっとムッとしたイケメン、ご馳走様ちそうさまです。

 それから5分置きに他の魔物の素材も口にし、無事に素質を引き継いでいるのを確認できた。

 色んな魔物たべものを食べれて満足気な私と、新たな素質を得るという珍しい光景を観察できて満足気なレヴァさんと、ヒヤヒヤし過ぎて疲れ気味なお兄さんも確認されました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る