第7話 猫好きな猫と種族
冒険者ギルド地下、レヴァさんの研究室は相変わらずの汚部屋だ。おそらく高価な物なんだろう本も、積まれに積まれ、塔のようになっている。
むしろ上の方の本なんて、どうやって重ねたのだろう。逆に大変じゃなかろうか。女性としては高身長のレヴァさんだけど、明らかに本の塔が高い。
そして低めの塔はすっかりレヴァさんにとっては椅子感覚であり、お兄さんも特に気にした様子もなく座っていた。
まぁ、私も座っているんだけどね。爪は立てないようには注意してます。
「それにしても、本当に君はなんの魔物なんだろうねぇ」
「
不思議そうなレヴァさんに、私も首を傾げる。
最初の頃は【魔女の使者】と呼ばれる、マギアテイルという黒猫の姿をした魔物のユニーク体の可能性が高いっていう話だった。
ただマギアテイルは成猫のサイズが普通で、私のような子猫サイズは見たことがない。肉体を持たないスピリット系の魔物は
それに人間の言葉を理解できるほどの知能を持つ魔物というのも聞いたことがない。
極めつけは、食べた相手の素質を引き継ぐという異常性。
「そして尻尾が新たに
私の頭を少し強めに撫でるレヴァさんは、背後で揺れる2本の尻尾に目を細めた。
「見つからなかったか」
「あぁ、全く。手元にある魔物図鑑を全部ひっくり返してみても、外見がマギアテイルに似ているくらいしか見当たらなかったよ。文献にも素質の引き継ぎなんてものは書かれていないし、謎ばかりだ」
「そうなると、完全に新種ということになるのか?」
「そうだねぇ。下手に魔獣だなんてことにするよりも、新種の魔物と言っておいた方が楽だよ」
「魔獣の可能性も捨てきれない、と」
「そもそも魔獣の定義だって曖昧だからねぇ。ま、なんにしたって私は魔物研究者であって魔獣は専門外さ」
そう肩を竦めるレヴァさん。
私のことだというのに、私からは何も答えられないのが悲しいところ。せめて
いや、むしろ謎が増すか?
「別の世界で女子高生してました!」なんて言われても困るか。
でも、それで少なくても言葉を理解できているっていう部分は説明がつくんだけどなぁ。魔物にしては知能は高くても、人間としては知能は高くない私です。
私の特技なんて野良猫とすぐ仲良くなれるのと、猫種に詳しいくらいだもの。
こっちの文字が分かるようになれば、どうにか伝えられるかな。さすがに猫のお手手じゃペンは持てない。可愛い肉球ですよ。プニプニ。
もしくは、あのクリスタルドラゴンのように相手に言葉を直接届けられるような能力があればな……。
実はドラゴンの
「とりあえずは新種ってことにするとして、種族名は何にするかい」
「種族名か……」
日本人の私からいえば、この2本の尻尾の生えた姿は、
確か、山に住んでいるタイプと、家猫が
前者は山奥に入った人を襲ったり、人に化けて誑かしたりする。後者は飼っていた猫が年を取って妖怪になる。そのせいで昔は猫を長いこと飼うものじゃないって言われていたりしらしい。
猫好きな私。猫又もまた猫なので、守備範囲内です。
妖怪だって良いじゃない。可愛いんだから。
「猫型の魔物というと、マギアテイル、アイスキャット、サンドケッタ、フェアリーアイルが有名どころかな」
「
猫型だけでも意外と種類があるんだなぁ。フェアリーとか、随分可愛い感じがするけど、魔物なんだよね? 妖精のような羽のついた猫…………何ソレ激かわ。スマホのロック画面待ったなしだよ。
いや。浮気じゃないんだよハル君……! 私にとってナンバーワンフェアリーはいつだってハル君ですから!!
そう心の中で弁解しつつ、スマホがあれば、と悔やまずにはいられなかった。
本の上で寝っ転がり、ゴロゴロとしている
「外見はやっぱりマギアテイルだが…………ふむ」
「そう難しく考えなくても、見たままでいいんだよ。種族名なんて基本的に聞いたら誰でも分かるのが良い名前だからねぇ」
「そうだが…………」
眉間に皺を寄せて真剣に考えている様子のお兄さんに、レヴァさんはやれやれと首を振っている。
お兄さんの右手が伸びてきて、私の身体をワシャワシャと撫でた。くすぐったくて肉球で手の甲を叩き、2本の尻尾で手首を捕まえる。
「一番の特徴となると、やはり2本の尻尾だよな」
「そうだねぇ。他の猫型でも、尻尾が2本というのはいないよ」
となると?
「ツインテ……いや、さすがにそれはな」
「くっくっく……良いんじゃないかい、ツインテール。可愛い髪形だよ」
「そうか……?」
レヴァさんは愉快そうに笑っている。
完全に他人事だと思って。まぁ、私もツインテールくらいしか思いつかなかったよ。
そういえば、猫又って英語ではモンスターキャットっていうんだっけ。
そんなわけで、私は暫定的に【ツインテイル】という種族になったのでした。
猫又と書いて、ツインテイルと読む、ってね。
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